電話で連絡が取れない時は、家庭訪問を行う。テレビやスマートフォンがない問題の解決にも動く。
「ある少女の場合は、宿題のやりとりができるように親にスマートフォンを買ってもらいました。ところがパンデミックが長引く中、親は通信費が払えなくなり、スマートフォンが使えなくなったんです。少女は必死で考え、いろいろな方法で宿題を何とか提出していました。それを見た担任は、通信費を自分が負担することにしたんです。そういう話が今、たくさんあります」(ゴンサレス教頭)
ゴンサレス教頭が参加する教職員組合では、「家で学ぼうII」が始まってまもなく、中古のテレビやスマートフォンなどの寄付を募り、必要な家庭に配った。
「中にはとても古いテレビもありましたが、何人かでお金を出しあって、ケーブルやアンテナ、変換器を買い揃え、地上波デジタル放送が観られるようにして、必要な子どもに贈りました。それでもまだ、全員を助けられたわけではありません」(ゴンサレス教頭)
全校児童511人中、13人は休学状態にあり、30人ほどは定期的な宿題の提出ができずにいる、とゴンサレス教頭はため息をつく。
「教師にとっても子どもにとっても、直接関わることがとても大切なんです。学校では、知識だけでなく、感情面、社会面で得るものがたくさんあります。そうしたものが今、とても不足しているんです」(ゴンサレス教頭)
子どもの居場所
学校の役割が、学問を教えることだけではないのは、メキシコシティの旧市街の一角で保育園を運営する友人、ディアナの話からもよくわかる。彼女が代表を務めるNGO「オリン・シワツィン」が運営する保育園は、パンデミック発生直後の3月下旬から約1カ月半、公教育省(SEP)の指示に従い、休園した。しかし、5月半ばには、地元保健局の特別許可を得て、再開に踏み切った。「何とか子どもを預かってもらえないか」と、園児の親たちに懇願されたからだ。
「親の大半は、この保育園周辺の露店街で商売をしている人たちで、毎日の売り上げで家族を養っているの。1日働かないだけで、食べるに困る人も多いということ。でも、働くために幼い子どもたちを家に残していくことはできないし、露店街へ連れていっても安心して働けない。だから保育園が必要なのよ」(ディアナ)
ディアナによれば、園の再開後まもなく、園児の8割近くが戻ってきた。それどころか、すでに卒園したはずの小学校低学年の子どもたちまでが、弟妹とともにやってくると言う。
「まだ7、8歳の子どもたちは、親がいない家に自分たちだけ残されても心細いばかりか、食料も十分になく、テレビ授業を観たってよく理解できないからよ」(ディアナ)
保育園に来れば、ディアナたちの好意で、弟妹と同じように栄養バランスのよい朝食と昼食をとることができる。また、テレビ授業をただ観るだけではわからなかったことを、保育士やディアナら大人に質問することも、宿題を見てもらうこともできる。2020年12月、私たちが取材で訪れていた数日間、受付に置かれた事務机では、いつも小学生2人が宿題をしていた。
「この保育園が、家庭や学校の代わりになっているの」
と、ディアナ。
保育園では、各家庭の経済状況に合わせて無理のない額の保育費をとり、わずかな寄付と合わせて、スタッフ4人の給料と子どもたちの食費に充てている。ディアナは無給ボランティアとして働く。だが、パンデミック下では、保育費が払えない家庭が増えており、園の運営資金はギリギリだ。
毎日を保育園で過ごす小学生たちは、宿題をしたり、食事をしたりしているだけではない。時には自分のきょうだいを含む園児たちの遊び相手、保育士のサポート役にもなっている。
「子どもたちをここに預けられるので、本当に安心して働けます」
夕方5時に子どもを迎えにきた親たちは、一様にディアナたちの活動への感謝を口にする。もし保育園がなかったら、子どもたちは食事に困るだけでなく、ひたすら家に閉じこもっていなければならず、危険にさらされるからだ。
「貧困家庭の場合、大勢で狭い場所に住んでいることが多く、パンデミックで失業したり、仕事が減ったりしてストレスが溜まった父親や義父、叔父などによる暴力問題も、深刻化しているの」
ディアナが真剣な顔で言う。2020年6月初め、彼女のFacebookに、笑顔の少年の写真がアップされた。タデオくん、6歳。つい1年前まで保育園に通っていた、愛嬌のある優しい少年だ。彼が突然、死んでしまった。
「同居している叔父が、昼間から酔っ払って、タデオをアパートの3階の窓から放り投げたの。即死だった」