人に合わせて仕事をつくる
立ち上げにあたっては、関西一円で有機食品等の生産・加工・配送・販売を行う「関西よつ葉連絡会 よつ葉ホームデリバリー」をはじめ、センターに関わるさまざまな組織とのつながりが助けになった。
現在、北摂ワーカーズが行っている事業は、「よつ葉ホームデリバリー」の配達ドライバーや剪定などの植木仕事、住宅リフォームなどの大工仕事、郵便物の回収や空気の入れ替えなどを行う空き家の見回り、若者の生活支援NPOの食料梱包・配達作業など、多岐にわたる。鈴木さんは、「北摂ワーカーズでは、事業を通してメンバーといろいろな人とのつながりが生まれています。そのつながりから、また新たな事業が生み出されていく」と話す。
設立から数年間は、主に木澤さんが持つ人脈を通じて仕事を獲得し、それをメンバーで分担してきた。現在は、事業別に担当者を決めて運営しており、関わるメンバーの関心やニーズに合わせて仕事を増やしていくようにしているという。
「仕事のために人をつくるのではなく、人に合わせて仕事をつくるんです」
と、木澤さんは強調する。
そうした考えは、北摂ワーカーズが「労働者協同組合(労協)」方式で運営されているからこそ、生まれたものだろう。北摂ワーカーズでは、メンバー同士が雇う/雇われるという関係ではなく、「組合員」として全員が出資し、毎月5000円の「組合費」を納め、みんなで事業を動かしている。運営方針については、月1回以上行われる運営会議で全員で話し合って決める。月1回の会計会議では、組織の財政状況を確認し、仕事の報酬もその場で各自に手渡される。
北摂ワーカーズは、その定款に謳っているように、「分断と競争に代わる、団結と協同の実践の場」、「民主主義の訓練の場」であり、活動を通して「自らの発展が社会全体の発展となるような、平等と協力を前提とした経済を求める」という理念で動いている。
つながりから生まれる仲間
取材で大阪を訪れた日曜日の午前中、鈴木さんは「よつ葉ホームデリバリー」の依頼で店舗に棚を設置する仕事をしていた。定休日の店舗の前で、鈴木さんと最年少メンバーの片山千紘さん(27)が、あらかじめ用意された組み立て式のスチール棚を2つ組み立てていく。兄妹で引っ越し作業でもしているかのように、和やかな光景だった。
午後は、私用で来られなかった1人以外のメンバー全員が、この取材のために事務所に集まってくれた。若手3人は、木澤さんもよく知る大阪市北区中津のシェアハウスに関わったことがきっかけで知り合った仲間だという。
市野新一朗さん(32)は、神戸での学生時代は政治に関心を持ち、反原発や集団的自衛権反対のデモなどに参加していた。好きな絵をかいたり旅をしたりするために2年間休学した後に、大学を卒業。企業に就職する同級生を横目にそうした生き方に疑問を感じ、アルバイトで働き続ける。そんな時に出会った木澤さんに植木の剪定の仕事をやらないかと誘われ、北摂ワーカーズに参加した。
「木工や植物などが好きなので、植木仕事にはとても興味がありました。何より協同労働、協同運営という理念で一緒に働いているという感覚が、魅力です。普通の会社に就職した友達は、社内の上下関係などに苦しんでいますから」
今はプログラミングの訓練校に通っており、そのスキルを新たな事業につなげたいと考えている。
「ストリートダンスがライフワーク」と語る山本晋一郎さん(33)は、大学でストリートダンスを始めてから、身体表現に興味を持つようになった。ダンスに夢中になった末、それを続けるために普通の就職は考えられなくなる。