「そこで、シェアハウスに暮らしながら、そのシェアハウスの関連の弁当屋で働いていました。週3日働けば住まいと食べ物には困らない。プラス週1でバイトをすれば、好きなダンスが続けられたので」
ところが弁当屋は、もめ事が起きて閉店。「その際行われた話し合いに調停役として現れたのが、木澤でした」と、笑う。弁当屋の仕事を失った後は、その関係者に紹介された労働者協同組合で1年間、植木仕事をした。その後、食に関わる仕事に憧れ、木澤さんの伝手で鹿児島県徳之島町地域おこし協力隊の手伝いとして1年間、農業に携わった。
「大阪に戻った時、僕にもやれることがあるならという気持ちで、北摂ワーカーズに入りました。これからは、植木事業全体の統括を担っていくつもりです」
前出の片山千紘さんは、山本さんのパートナーだ。丹波篠山市出身で、高校卒業後に一旦地元で事務職に就いたが続かず、単身大阪へ。経済的に厳しい状況に直面していた時に、山本さんと知り合う。そして、徳之島町へ同行。大阪に帰ってからは、(北摂ワーカーズの)事務所の下の階に住むようになり、次第に仕事にも関わるようになった。
「今は、(よつ葉ホームデリバリーの)配達の仕事がすごく楽しいです!」
そう笑みを浮かべる片山さん。子どもの頃から両親との確執に悩み、自傷行為を繰り返すなか、自分の気持ちを率直に話せる環境を必要としていたと明かす。
「精神面での相談ができる職場って、なかなかないんですよね。ここではみんなが仕事を根気よく教えてくれるし、あたたかく接してくれる。おかげで精神的に成長できました。私と同じような生きづらさを抱えている若い人は、多いと思います。人間らしく働ける場がもっと必要なんです」
互いの生活を気にかける文化
非正規雇用やブラック企業など、問題だらけの若者の労働環境を変えようとする北摂ワーカーズの取り組みは、「労働の常識」を変え、若者たちが働き生きることをもっと素直に楽しめる環境を築いていけるのではないか。メンバーの話からは、そう感じられる。
ただ一方で、正式な労働者協同組合ではなく任意団体であることにより、非正規雇用やフリーランスと同様、社会保障は各自の負担となってしまう。フリーランスとして活動する私に対して、「そんなふうに生きたい。でも何の保障もしてくれない世界へ飛び込むのはためらわれる」とこぼす若者たちにこれまで何度も出会ってきたため、保障についてメンバーたちはどう考えているのかが気になり、聞いてみた。すると、わずかな沈黙のあと、まず山本さんがこう答えた。
「人は、保障があるから生きやすい、幸せだというわけじゃない。たとえ保障があっても、働く組織内の人間関係が最悪ではどうしようもないじゃないですか」
木澤さんもこう続ける。
「(保障に)お金だけ出しても、本当の意味で支えているとは言えないのではないか。誰かが北摂ワーカーズを辞めることになっても、その人がその後の人生を生きていけるよう、仲間が協力し合って動く。それができることこそ、大切でしょう」
金銭的な保障以上に人間のつながりこそが重要だと強調するメンバーの話に対し、市野さんは、独自の保障の形を思い描く。
「北摂ワーカーズのような相互扶助の組織でどのように保障を作り出していけるか、ということにも関心があります。例えば、共済組合のような形で、軽いケガや病気であれば対応できるようにできないか」
それらの声を受けて、鈴木さんは言う。
「将来的には自分たちで自分たちを保障するような仕組みが、ここにある “互いの生活を気にかける文化” の中から生まれてくると思う」
設立から3年半経つこの春から、北摂ワーカーズは新たなステージに入る。これまではリーダーである木澤さんが事業全体を統括する形だったが、今後はメンバー全員で統括し運営できるような組織づくりを進める。木澤さんは言う。
「今は配達や梱包作業のように1人で行うものが多く、ひとつの仕事をみんなで協力してやることはあまりありません。みんなが参加できるような事業のあり方を、築いていけたらいいなと考えています」
北摂ワーカーズ
事業開始 : 2019年10月
組合員 : 6人
事業内容 : 配送、植木仕事、大工仕事、空き家の見回り、若者の生活支援NPOの食料梱包・配達作業など。
モットー : 全員参加。協同で、自分たちらしい働き方、生き方をつくる