二度目の面会
数カ月後、私たちは再び、まだ拘置所にいるカルロスのもとへ。今度はNGOの活動の一環で拘置所にいる若者を訪問している友人に頼み、NGO関係者としての面会手続きを使って入ることにした。そうすれば、拘置所内の囚人たちの様子も直接見ることができると聞いたからだ。
当日は、荷物チェックを受けた後、前回カルロスと面会した建物には行かずに、まっすぐ囚人たちがいるスペースへと進んだ。屋根付きの屋外通路の先に、金網フェンスで囲まれた収容スペースが見え、通路正面にある出入り口には、警備員が1人立っている。近づいていくと、警備員の背後、出入り口の向こう側には、揃いのベージュ色の服を着た囚人たちが十数人、群がっていた。
その中でも前のほうに陣取る連中が、先に到着していた女性の面会者に向かって、「誰をお探しですかぁ」と、叫んでいる。それに応えるように、女性が会いたい人の名を告げた。その瞬間、囚人の1人が、「私が連れてきます!」と宣言して、収容施設のある方へと走り去る。見送った警備員が扉を開けて女性を中へ入れていると、まもなくさっきの囚人が面会相手を連れてきた。女性は、その青年にいくらかのチップを手渡す。
「そちらの方、そうあなた、誰をお探し?」「連れてきますよ」「私に任せて」
今度は私たちの番だ。声をかけてくる囚人たちにカルロスのフルネームを言うと、さっきとは別の青年が「私が連れてきます!」と名乗りをあげた。よく見れば、それは顔見知りの路上青年だ。どうやら軽犯罪で逮捕されたらしい。
警備員の指示で中へ入った私たちは、カルロスを探しに走り出そうとする彼に、「一緒に探しに行きたいんだけど」と頼んでみた。できることなら、彼らがどんな環境で生活しているのか、多少なりとも見てみたい。我らが案内人は、あっさり「いいよ」と言い、手招きしながら、大勢の囚人でざわざわしている方へと歩き出した。出入り口の警備員は、囚人とのおしゃべりに夢中でこちらをまったく気にしていない。人混みに紛れた私たちは、案内人のあとを追って囚人が行き交う収容施設の階段を上っていった。上は踊り場のようになっていて、その先に囚人たちが生活している場所があるらしい。
「ここから先は1人で行くから、待ってて」
案内人はそう指示すると、さらに奥へと消えていく。
待っている間、脇をひっきりなしに往来する囚人の中には、「あ、ラティータ(カルロスのあだ名)に会いに来たの?」と、声をかけてくる青年もいた。どうやら路上の知り合いの何人かが、ごく軽犯罪でも拘置所行きという法律改正の犠牲になったらしい。
そうして待つこと数分、案内人と連れ立って、カルロスがやってきた。

拘置所を出てしばらくした頃のカルロス。「ガールフレンド」だという女性(右)を紹介してくれた。2012年 撮影:篠田有史
「拘置所」での学び
案内人に日本円で130円ほどのチップを渡した私たちは、カルロスと3人で収容施設の外へと引き返した。警備員のいる出入り口前にある広い屋外空間に出ると、そこは拘置所内であるにもかかわらず、まるでカルロスたちがねぐらにしていた地下鉄駅と露店街のある街角のような所だった。
出入り口寄りの広場の真ん中では、十数人の囚人が、思い思いにタバコを吹かしている。「あれは、マリファナだよ。あそこでマリファナを吸うことは許可されてるんだ」と、カルロス。一部の囚人たちの間では、ほかの薬物も秘密裏に取引されているが、そうしたものにできるだけ手を出さないで済むよう、一定量のマリファナの使用は許されているのだと、路上青年が言う。
その広場の奥には、塀の外で見かけるのと同じタコスやトルタの屋台と食堂がある。そこでは、模範囚から選ばれて営業権を得た男たちが、囚人やその面会者を相手に食事を提供しており、先に入った面会女性も息子らしき青年とのひとときを楽しんでいた。ふだんは面会者のいないカルロスには、食べ物やお金の差し入れも、こうした食事を楽しむ機会もないようだった。
「何か食べる?」
そう尋ねると、「タコスが食べたい」と言うので、私たち3人は食堂に入り、タコスを数個注文した。出てきたタコスはあっという間に路上青年のお腹へと吸い込まれていく。聞けば、刑務所で支給される質素な食事以外、食べ物はもちろん、体を洗うための石鹸もすべて、自分で買わなければならないという。
タコスを食べ終えてからは、「少し散歩しようか」と言うカルロスと共に、「マリファナ広場」の先にある別の小さな建物のほうへと歩いた。そこではたまに映画上映があると、映画好き青年が説明する。
「この間は、罪を犯して刑務所にいたんだけど、出所した後に罪を償おうと人助けに励む男の話を観たよ。ボクもここを出たら、何か人の役に立つ仕事ができたらいいなと思うんだ」
カルロスは、建物内部にたくさんの椅子が並ぶ会議室のような場所を示しながら、そこで観た作品からの学びを語った。
「観る映画は、毎回、とても勉強になる内容なんだよ」
好きな映画を通して届けられるメッセージには、誰よりも敏感な様子だ。
薬物が売られているような所では、そんな学びもなかなか皆に浸透しないのでは? 私がそう疑うようなことを口にしても、少なくとも自分の学びは本物だと、言い切る。
「街で通りの清掃の仕事をしている知り合いがいて、そのおじさんが以前、仕事をくれるって言ってたんだ。だから、ここを出たら、ボクもその仕事ができるかもしれない」
かなり具体的な話に、私は少しうれしくなって、
「それはぜひそうしようよ! 私たちも応援するから」
と、カルロスの肩を叩いた。1年後にメキシコシティに来る頃には、もう出所しているに違いない。できればそのタイミングで再会し、住む場所と仕事を手に入れて、一気に路上生活を抜け出せたら。
淡い期待を抱きながら、私はカルロスに、仕事を得て、フアナとマヌエルの家に世話になることを提案した。出所する日が決まったら、フアナに電話して迎えにきてもらえば、路上の仲間たちのところへ戻らずに、次の人生を始められる。住まいを得て、仕事にも就くことができれば、きっと路上人生に終止符を打てる。
そんな話をし、フアナの電話番号を書いた紙を手渡しながら、「出所時は必ずフアナに知らせるのよ」と、念を押す。真剣な顔で聞き入っていた青年は、紙を受け取りながら、
「わかったよ。ありがとう」
と、応えた。

久しぶりに髪を切るカルロス。もう25歳をすぎ、すっかり大人になった。そして表情がより厳しくなった気がした。2012年 撮影:篠田有史