「僕は、社会主義者なんです」
アンヘルが突然、私の目をまっすぐ見つめて言った。
「僕はこれまでに会計学、統計学、社会学を学びました。教育学も勉強しています。僕にとっては、どれも祖国の未来を考えるために必要なものです。社会的連帯経済も同じです」
イエズス会と社会主義。この組み合わせには、思い当たるところがある。キューバ革命の最高指導者で、長年カトリック教会を弾圧していた故フィデル・カストロも、大学進学前の7年間、イエズス会士が運営する学校で学んだからだ。フランスのジャーナリスト、イグナシオ・ラモネによるインタビューで、カストロはこう語っている。
「イエズス会士は、個人の尊厳の偉大な意味や名誉の意味を説く。人間の個性、率直さ、正しさ、勇気、犠牲的精神を重んじ、それらの価値を育むのだ。(中略)私の気性は部分的には生来のものだが、イエズス会士によっても形成されたと思う」(『フィデル・カストロ 自ら語る革命家人生・上』岩波書店、2011年)
カストロの言葉からは、社会主義政権が大切にしてきた平等の精神や他者への奉仕といった価値観が、イエズス会の精神に通ずるものであることがわかる。そのイエズス会の組織で働き、社会主義者を名乗る青年の話を聞いていると、彼の思い描くキューバは、もしかすると豊かで理想的な社会主義国なのかもしれないと、思えてくる。
かつて社会主義政権によって異端視されていたキリスト教者。その中に、今、社会主義のために奔走する若者がいることに、私は新たな希望を見た気がした。これまで言葉を交わした若者の中で、社会主義支持を語ったのは、大抵、体制側の人間か、キューバ革命やカストロ政権の政策に共感する家庭に育った者だった。そうでない者は、現体制に対する不満や批判を並べるか、自営業で稼ぐ、あるいは資本主義先進国へ出ていくことしか頭にない人間が多かった。それに対して、アンヘルは、体制に抑圧された側の家庭で成長してきたにもかかわらず、イエズス会の教えや社会科学を学ぶことを通して、社会主義の理想に共感し、それを実現するために行動している。資本主義世界で始まった「既存の資本主義経済とは異なる、もうひとつの経済」を築く動きから学ぼうとしている。そこには、私たち資本主義世界に生きる人間との連帯も生まれるだろう。キューバだけでなく、日本を含む世界が変わるために、アンヘルのような若者の存在は大きな意味を持つのではなかろうか。