夫は、近隣の住宅建設現場で働いており、日中はアナ・ベレンが小学3年の娘カミーラ(8)と2歳の息子エステバンの面倒を見ながら家事を担う。
「娘は今、テレビ授業よりも、もっぱら先生が作ったプリントで勉強しています」
ここでもやはり、プリント学習が主体となっていた。
「ウチでは最初、テレビ授業を観られるように、ケーブルテレビを付けたんです。アナログのテレビしか持っていないので、授業をやっている普通のデジタル放送のチャンネルは映らなかったものですから」
アナ・ベレンの家では、アナログ放送の時代から受信環境が悪く、テレビが綺麗に映らなかったため、デジタル放送になってからはテレビを観ずに放置していた。そこで、「家で学ぼう」が始まった時、すぐ裏手に住む夫の両親と相談し、2軒で費用を半分ずつ負担してケーブルテレビの契約をしたのだ。それ以来、毎月1軒100ペソ(約500円)の受信料を払っているが、娘は今、「家で学ぼう」をあまり観ていない。要らなくなってしまったからだ。
「子どもがテレビ授業を理解するには、親が付き添って手助けする必要があります。一人で観ていても、わからないことがあると集中力を失い、身につかないからです。でも、子どもの学びを助けられる親がいる家庭は少ないのが、この辺りの現実です」
アナ・ベレンによれば、この農村地帯では、町以上に親の教育水準が低く、小学校低学年の子どもの質問にすら、答えるのが難しいという。そのほとんどは、日常をトホラバル語で過ごす人々だから、なおさらだ。
「なかには、(公用語の)スペイン語の読み書きができない親もいます。それである日、先生との集まりで、母親たちが訴えたんです。テレビ授業では子どもたちは勉強が身につかないので、ほかの方法を考えてほしい、と」
その結果、ジュリディアの次男のケースと同様に、教師たちはテレビ授業とは関係なく、ごく簡単な内容のプリントを作って毎週配布し、それを提出させて採点することにした。それでも母親たちに「1週間で全部やるのは難しい」と言われ、結局、2週間に一度の提出でいいことに。
家庭でスペイン語を使わない先住民が多い地域では、「家で学ぼう」を活用して勉強するのが困難な子どもが、大勢いる。子どもたちは、学校に行き、スペイン語と先住民言語の両方を話せる教師に直接指導を受けて初めて、学習意欲が湧く。この問題は、SEPが制作した先住民言語の番組も放送されている地域でも、大きく変わらない。すべての学年のすべての授業がバイリンガル放送になっているわけではないからだ。
テレビ放送による「家で学ぼう」プログラムは画期的ではあるが、そこには複数の障害がある。デジタル放送が観られるテレビを持っていない、スペイン語でしか放送されないテレビ自体を観る習慣があまりない、テレビ授業を子どもが一人で理解するのは難しい、サポートできるだけの学力を持つ親がそばにいない、ネット環境がないので教師とのコミュニケーションは電話か対面に限られる、などなど。つまるところ、“家で学ぼう”と言われても、簡単ではないのだ。
(つづく)