限られた地域や業種に融資する信用組合・信用金庫のような金融機関からも、担保がないとお金を貸さない銀行からも融資を受けられなかったため、NPOバンクが頼りとなった。
多摩川の水環境を守り、その流域に暮らす市民が川と共に健やかに生活するための事業を進めるNPO法人「多摩川センター」代表理事の山道省三さん(71)も、同じ多摩川流域で活動する仲間から紹介され、未来バンクにつなぎ融資を申請した。
「私たちの団体は、会費収入だけでは運営していけないので、収益を得るために国の事業を受託しています。しかし、その受託費が支払われるまでの間、運営費が不足するんです。そこで、未来バンクを利用することにしました」
山道さんによれば、融資を受けた際にきちんと返済を行っていれば、信頼によって融資の継続もスムーズにできることが、未来バンクを利用するメリットだという。
NPOバンクの未来
現在、未来バンクが融資の相談を受けたり、融資を決めたりしている事業は、年に10件程度だ。
「今は、お金を借りて返せる市民団体は決して多くないので、融資希望者は減っています」
と、田中さんはNPOバンクの利用の現状をそう話す。クラウドファンディングが広まったことで、返済が必要なNPOバンクによる融資を受けるよりも、「寄付してもらうほうが楽」だと考える人が増えているようだ。近年、国(日本政策金融公庫)がNPOも対象に実施している融資の金利が、一般のNPOバンクよりも低く設定されていることも、融資希望者減少の一因になっているという。
もうひとつ、NPOバンクを長年悩ませていることがある。それは、社会問題化した「サラリーマン金融(サラ金)」への規制を強化するために改正を繰り返してきた「貸金業法」の下で活動せざるをえないという現実だ。貸金業の登録や3年ごとの更新の際にかかる15万円の手数料も大きな負担となっている。
「資金規模の小さなNPOバンクは、その登録手数料をメンバーが出し合ったお金で払っているんです。おかしな話です」
そう言う田中さんは、本来ならば「NPOバンク法」を作り、その事業目的や意義に沿った法律の下で活動できるようにすべきだと考える。にもかかわらず、「企業以外の社会的組織の存在意義を十分に認めないこの社会で法律作りを主張しても、相手にされていない」と感じている。
そんな中、NPOバンクの可能性を広げるため、田中さんたちはあることを考え始めた。
「未来バンクで、クラウドファンディングの仕組みを用いた融資を行う、というアイディアがあります」
「クラウドファンディング」は、通常、資金が必要な個人やグループ、団体が、プロジェクトを立ち上げて、クラウドファンディングを運営するサイトにアップし、寄付や出資を募る仕組みだ。寄付・出資をした人(支援者)には、金額に応じて「リターン」と呼ばれる何らかの見返りがある。寄付型、購入型、融資型などさまざまな形式があるが、集まった額の10〜20%前後はサイト運営者に手数料として差し引かれる。
「これは、金利をそれだけ取られるのと同じことです。それならば、未来バンクに集まっているお金を、特別担保提供融資のような形で、組合員が応援したいと思うプロジェクトに渡して、手数料を1%だけもらうほうがいいじゃないですか」
と、田中さんは提案する。
確かにそれこそ、市民による市民のためのクラウドファンディングだ。
そうやって出資者一人ひとりの意志を反映する形で集まっているお金を、信頼関係に基づいて応援したいと思う人や団体に託し、地域や社会をよりよくする活動を推進する。市民のつながりから生まれたNPOバンクなら、そんな未来を創ることもできるかもしれない。
未来バンク
設立年 : 1994年(新生未来バンクは、2019年から)
人数 : 役員8人、スタッフ1人、アドバイザー2人
事業内容 : 環境、福祉、市民事業、天然住宅への融資
モットー : すべての人がお金に意志を持たせる社会を創る