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「金融NPO(非営利団体)」あるいは「市民金融」とも呼ばれるNPOバンク。それは、自分のお金が地域社会や福祉、環境保全など、よりよい社会を創るために生かされることを望む市民による、市民のための金融機関だ。その先駆けである「未来バンク」を取材した。
未来バンクの2019年度総会後の記念撮影。前列左端が理事長の田中優さん、中央が佐藤隆哉さん。
始まりは反原発
「江戸川区で反原発運動をしていた市民グループの活動が、きっかけでした」
「未来バンク」理事長を務める環境活動家の田中優さん(64)は、そう語る。未来バンクの構想は、1990年代、田中さんが地元・東京都江戸川区の仲間と運営していた市民団体「グループKIKI」が、日本の支援によるインドネシアへの原発輸出について調べたことに始まる。グループKIKIは、その原発輸出に反対していた。
「調査した結果、私たちが阻止しようとしていた原発輸出をはじめとする日本の開発援助の大部分が、郵便貯金を資金源としていることがわかりました。郵便貯金の預金残高は、政府の一番の財源である税収額の3倍を超えていました。郵便貯金は、政府の『第2の予算』と呼ばれた財政投融資(注:国の政策実現のために公的資金を投融資する制度。2000年度までは郵便貯金や年金積立金などの個人資金を財源としていた。2001年度以降は、国債など市場から資金を調達している)の主な資金源となり、財政投融資によって政府開発援助(ODA)や日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)へと融資されていたのです」
調査結果内容は、1993年に『どうして郵貯がいけないの 金融と地球環境』(北斗出版)として出版された。当時の状況は、現在でも変わらないと田中さんは言う。
「現在でも、私たちが銀行に預けているお金は、さまざまな環境破壊行為に結びついています。地球温暖化を引き起こす石炭火力発電へ資金を提供しているのは、日本の3大メガバンクです。私たちは、既存の銀行にお金を預けるシステムから抜け出さない限り、地球環境を破壊する悪循環から逃れられないのです」
田中さんたちは、その悪循環を断ち切るために、「自分たちのバンク、市民バンクを創らなければ」と考えた。そうして1994年4月に設立されたのが、現在の未来バンクの前身である「未来バンク事業組合」だ。
「バンク」と言っても、銀行法に基づく銀行ではない。銀行の設立は、多額な資本金などさまざまな厳しい条件があるために、難しい。そこで、まずグループKIKIの仲間30人ほどを中心に計画に賛同する人が集まり、民法上の組合契約に基づく組織(市民の集まり)として発足。未来バンク事業組合の組合員から約400万円の出資金を集め、貸金業法に基づいて設立した融資部門「未来舎」を通じて融資する事業を開始した。
その後、田中さんたちは、一般社団法人「天然住宅」(森を守り、健やかに暮らすため、化学物質を使っていない国産木材を用いて長持ちする家を建てる団体。現在は株式会社)を設立し、その活動を金融面で支える「天然住宅バンク」を、2008年に設立した。2019年2月からは、未来バンク事業組合と未来舎、天然住宅バンクが合併して、現在の未来バンクとなった。
NPO法人「しんりん」の活動拠点、宮城県大崎市鳴子温泉の川袋温泉地区にあるエコラの森で、皮むき間伐をする田中優さん。ここの木材は、「天然住宅」で使用されている。
お金に意志を持たせる
「1990年代、未来バンクが動き出すと、各地で市民バンクをやりたいという人たちが、次々と独自のバンクを立ち上げていきました。それが今、NPOバンクと呼ばれているものです」(田中さん)