地域通貨で地域を変える
「地域の人たちが、さるぼぼコインを使うと地域がこう変わるんだ、と実感できる機会を、もっと創っていきたいと思います」
その方法のひとつとして検討しているのが、「さるぼぼコインの年間総チャージ金額の数%を、毎年、基金にしていく」というアイディアだ。
「基金ができたら、そのお金を地域の何に投資するか、毎年、さるぼぼコインのユーザーと加盟店の人たちに話し合って決めてもらうイベントを開こうかと、考えています」
例えば、公園に遊具を設置していく、町なかにベンチを設置していくなど、ユーザーと加盟店が地域に必要だと思うことを考えて事業を決定し、基金から投資する。
「そうすれば、さるぼぼコインの利用から基金の使い道まで、自分たちで考えて決定し起こした行動が地域にどんな効果をもたらすのか、実感してもらえると思うんです」
加えて、この基金を地域のクラウドファンディングに利用することも、視野に入れている。飛騨信用組合では、2014年8月からすでに一般のクラウドファンディングのプラットフォーム「CAMPFIRE」や「Makuake」と連携して、地域住民が手がけるプロジェクトを企画段階からサポートしている。飛騨信用組合は一切手数料をとらないため、プロジェクトの実行者は集まったお金の10%前後の手数料だけをプラットフォームへ支払っている。さらにこうした連携を利用して、さるぼぼコインの基金に集まった資金の一部を、その地域発のプロジェクトに投資すれば、本当の意味での「地域クラウドファンディング」が実現するのではないか。古里さんはそう期待する。
「例えば、年に1回、地元で起業したいという方たちに、プロジェクトのプレゼンテーションを実際に行っていただき、審査員となったさるぼぼコインのユーザーと加盟店の人に一番支持されたプロジェクトへ基金から出資する、というやり方です」
まだ構想段階にすぎないが、さるぼぼコインを地域経済のあらゆる場面で活用するためのアイディアは、尽きない。
助け合いと寛容さを育む
さるぼぼコインの利用状況には、課題もある。
ひとつは、加盟している事業者間の支払いでは、なかなか利用されないということ。送金手数料は0.5%と安いが、事業者は仕入れや販売において地域外とも取引をしているため、決済は銀行を通して「日本円で」行っている場合が多い。そこでもし地域内での支払いにさるぼぼコインを使うと、その出入金のみ別に確認、処理する手間がかかるのだ。基本的にコインを受け取る側にいる卸業者に至っては、どうしても日本円に換金する必要が出てきて、その換金手数料が1.5%かかることから、利用を渋ることになる。
もうひとつは、行政に入ってくるさるぼぼコインを、行政から出ていくお金としても利用できるようにすること。
「市は、入ってくるさるぼぼコインを今は日本円に換金しています。それがさるぼぼコインのままで外へ流れる仕組みを作れたら、もっと住民に広く利用される地域通貨になると思うんです」
例えば、現在は法律で規制されているが、給与の一部を電子通貨で支払えるようになれば、ある程度、地域通貨だけで循環する経済が築ける。だが現時点では、個人事業者の業務委託報酬の支払いにしか、さるぼぼコインは使えない。
そうした課題を抱えながらも地域通貨の普及を進める古里さんは、「お金のやりとりは、コミュニケーションのひとつ」と考えている。古里さんは、地域通貨が地域住民にとって、ただ便利なだけでなく、互いに感謝の気持ちを伝え合うための道具となってほしいと願う。
「実はさるぼぼコインには、支払いの際、お客さんが加盟店にメッセージを送れる機能が付いているんです。コロナ禍の中で、お客さんから『ありがとう』とか『がんばってください』といったメッセージを受け取った加盟店さんから、『今までこんなことを言われたことはなかった』という感激の電話をいただいたこともあります」
そうしたメッセージは全体ですでに数千件、やりとりされているという。メッセージを送った人と受け取った人、地域通貨でつながっている人たちの間に感謝の連鎖が広がることこそが、古里さんがさるぼぼコインを通して描く地域社会の未来だ。
「そんな話を、各地の地域通貨を担うみなさんとしています。特に、(2012年に誕生した東京・国分寺市の紙媒体の地域通貨)『ぶんじ』を運営する影山(知明)さんとは、たくさんお話しさせていただきました」
古里さんは、「お金であり、メッセージカードでもある地域通貨」という「ぶんじ」のコンセプトに、深い共感を抱く。
「アプローチは異なりますが、目指すところは同じだと感じています。地域通貨を通して感謝の思いが積み重なっていくことで、自然と地域に助け合いや他者を受け入れる気持ちが育まれ、広がっていく。そんな未来であってほしいです」
飛騨信用組合発行の地域通貨「さるぼぼコイン」
事業開始 : 2017年12月4日
担当チーム : 7人
事業内容 : 決済、送金
モットー : 感謝の連鎖を生む地域通貨