日本では、2000年前後に注目を浴びた「地域通貨」。特定の地域やコミュニティ内でのモノやサービスの交換に使用する通貨として、地域の活性化に利用されたが、期待されたほどは広まらなかった。そんな中、2017年、岐阜県高山市で生まれた電子地域通貨「さるぼぼコイン」は、利用者を広げ、地域通貨の新たな可能性を示している。その仕掛け人である飛騨信用組合の古里圭史さん(42)を訪ねた。
電子化で一気に広める
従来の地域通貨は、行政やNPO法人、市民グループが紙で発行するものが一般的だ。しかし、さるぼぼコインは、金融機関である飛騨信用組合が発行・運営するモバイル決済の地域通貨。黄緑色のかわいい子どもの顔が浮かぶさるぼぼコインのマークは、飛騨地方で昔から作られている「さるぼぼ(飛騨弁で『猿の赤ん坊』の意)人形」をモチーフにしている。専用のアプリを使って支払いをすると、「あんとう!」(飛騨弁で「ありがとう」の意)と言う地元の少女の声が流れる。
「かわいくて、親しみやすく、ワクワクする地域通貨にしたいと思ったんです。そして、まず地域経済に一気に広げようと考えました」
古里さんは、そう声を弾ませる。
すでに2万人を超える人が利用しており、その累計流通額は約31億円だ。普及の背景には、その利便性と、古里さんを中心とする担当チーム(7人)が考えた色々な仕掛けがある。
飛騨信用組合に口座を持っていなくても、スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、飛騨信用組合の窓口や飛騨・高山市内に4台ある専用チャージ機、全国のセブン銀行ATMでお金をチャージすれば、誰でも利用することができる。支払いも専用アプリを使ってQRコードで行えるので、とても便利だ。飛騨信用組合に口座のある人は、預金からチャージすることもできる。また、飛騨信用組合に口座を持つ個人や事業者同士なら、互いの送金にも使える。
利用地域である高山市、飛騨市、白川村には、現在、1500以上の加盟店がある。地元のスーパーマーケットチェーンや飲食店、道の駅など、町を歩くと至るところで、さるぼぼコインのマークを見かける。
「主婦は結構使っていますよ」と話すのは、地酒を販売するさるぼぼコイン加盟店のレジに立つ女性。自身も地元スーパーでの支払いは、さるぼぼコインで行っていると言う。タクシーや観光バス、ホテルや民宿などでも使えるので、観光客にも利用されている。ユーザーは誰でもチャージするだけで、1%のプレミアムポイントがもらえるのもうれしい。
地元の人はもちろん地域外から訪れる人が楽しめる仕掛けとして、情報サイト「さるぼぼコインタウン」で特別な利用機会が紹介されている。このサイトには、「飛騨高山の裏メニュー」と銘打った、さるぼぼコインでしか買えない地元の商品・サービスが並ぶ。日本酒好きにはたまらない「酒蔵でしか飲めない『幻の純米大吟醸』」、おいしいこと請け合いの「工場で食べる『揚げたて』のあげづけ(タレが染み込んだ油揚げ)」、熊の意外な一面を知ることができる「マタギに聞く『熊トリビア』、売ります!」など。古里さんが「地域の業者さんとずっと話し合って考えた」ユニークなラインナップが揃っている。