「私たちは、フェアトレード・プレミアムのお金でコーヒーの木のまわりに木陰ができるように植林をしたり、水資源を守るために使ったりしています」
と、パチタンさん。それは、フェアトレードの環境面での原則である土壌・水源・生物多様性の保全、有機栽培の奨励などにもつながっている。
社会面での原則には、安全な労働環境、民主的な運営、差別の禁止、児童労働や強制労働の禁止などが挙げられている。
これらの基準・原則を守る形で、マヤビニック生産者協同組合は、オーガニックコーヒーを生産し、国外へ輸出。国内では、ほぼ全国に取引先を持ち、サンクリストバル・デ・ラスカサスで経営するカフェテリアでの直接販売も手掛ける。
「2020年には、年間315トンのコーヒー豆の生産を達成しました。そこまで成長できたのは、山本先生や(杉山)セイコのようなすばらしい人たちと出会えたおかげです。パンデミックで、直接会える機会がなくなってしまっていますが、またこちらに来てくれると信じています」
PC画面の向こうのパチタンさんは、そう微笑んだ。
互いに想いを馳せる
豆乃木は、現在、10カ国のコーヒーを、合わせて年間およそ30トン扱っている。その半分は、マヤビニックのものを中心に直輸入したメキシコのコーヒーだ。残りの半分は、ほかの業者から仕入れている。パンデミックが収まり、再び海外の産地へ自由に行けるようになったら、中米やアフリカでもいい産地を見つけて、直接輸入する量を増やしたいと、杉山さんは意気込む。
「自分で直接輸入すれば、生産者とつながれるし、お客さんに伝えられる情報も増えます。コーヒーの価格の変化は生産地の人たちの生活にどう影響するのか、フェアトレードでその暮らしがどう変わったのか、といった情報をていねいに伝えることで、これからも飲み続けたい、生産地の人たちとつながっていたいというお客さんを増やせれば、と思います」
コーヒーを購入する人の中には、「これを飲むと、どのくらい現地の人に貢献できるんですか?」と尋ねる人もいると言う。そんな時、杉山さんは「コーヒー1杯で、8円程度」と伝えたこともあった。だが、肝心なのは、1杯でどれだけのお金が現地に届くかではなく、飲み続けることで世界をどう変えていくかだと、感じている。
「私は、フェアトレードをやりたかったというよりも、その先に皆が対等でバリアフリーな世界が生まれればいいなと思っているんです。フェアトレードは目的ではなく、手段にすぎない。貧しい『南』の生産者が、富める『北』の消費者のためにコーヒーをつくるのではない、買い手良し・作り手良し・世間良し、三方良しの社会を創るための、1つの手段になり得るということです」
公正な貿易の先には、平等な世界が見えるということだろう。
「私はもともとコーヒーが好き。だから、まずはコーヒーを通して、皆が互いの姿にちょっと想いを馳せる、といったつながりを、世界中で生み出していければと思っています」
豆乃木
事業開始 : 2011年8月
人数 : 杉山さん1人+アルバイト6人
事業内容 : オーガニックコーヒーの輸入販売
モットー : 「物語」と共に、「手から手へ」と届ける。
フェアトレードタウン
一般社団法人「日本フェアトレード・フォーラム」が、「フェアトレードを、市民、市民団体、事業者と行政が一体となり、都市ぐるみで推進している」と認定した自治体。2021年現在、日本に6都市ある。詳しくは → https://fairtrade-forum-japan.org