目が覚めると雨が降っていた。
カーテンを開けると、広い駐車場のアスファルトが濡れていた。
三条市のホテルに泊まった。行ったことのない街だった。新潟市でライブがある、その前日、弥彦村で競輪をして、無料送迎バスで三条市に入った。
夜、街へ出た。3軒ハシゴして、深夜1時頃、ホテルに戻って眠った。水を大量に飲んでいたので、朝、そこまで酒は残っていなかった。熱めのシャワーを浴びて、荷物をまとめてロビーへ向かった。フロントに荷物を預け、傘を借りた。新潟駅へ移動するまで少し時間があった。とりあえず喫茶店かカフェを探そう。なんとなく宿の周辺を歩き始めた。
茶店らしきものは、なかった。通りへ出るとあたらし目のオシャレな本屋があった。カフェも併設しているようだった。ただ自分にはちょっとオシャレすぎるかなと、通りを挟んだところから眺めて、通り過ぎた。コーヒーを飲めるところはなかなか見つからなかった。雨が降っていた。古い商店がいくつか残っていた。昔は栄えていたのだろうか。そういえば昨日入った店のママが言っていた。あなたの泊まってるホテルは昔「三条座」と言って、大きな興行をいくつも打っていた劇場だったのよ。すごく賑やかな通りで人が多くて大変だったわ、と。全国いろいろな街がかつて賑わっていた、という事実。そして今衰退しているという事実。旅をしていると、目の当たりにする。
しばらく道を行ったり来たりしたが茶店はなかった。あきらめて、似合わないだろうけどオシャレな本屋に入った。すいません、コーヒー飲めるんですか? と聞くと、すいません、今日だけやってないんですよ、と。なんてついてないのだろう。あ、そうですか、と冷静を装い、親切な店員さんだったので、この辺にコーヒー飲めるとこないですか、と聞いてみた。すると、少し離れているけど、この通りをずっと行ったところにありますよ、と教えてくれた。ありがたや。礼を言って、あとで戻ってくるので本じっくり見させてもらいます、と告げ、店を後にした。
雨が降り続いていた。しばらく歩くと、道の標識に、川、という文字が見えた。右の方を見ると、おそらく土手につながるであろう階段が見えた。道を渡りその階段を登っていくと、大きな川が現れた。いい川だ。ベンチがいくつか置いてあって、晴れてたら、ここでモーニングできるのになと思った。菓子パンと缶コーヒーでも買って、ベンチ喫茶。たまにやる。旅先では風情があって、よい。しかし今は雨。ベンチも濡れている。これではできない。仕方ないなと思い階段を降りて元の通りに戻った。
晴れていたらここでベンチ喫茶できただろう。目の前は川
しばらく歩くと、別の駅の商店街らしきものが現れた。この商店街に茶店はあるのだなと思った。果たして、教えてくれた店は、あった。しかしまだ開店していなかった。時間までぷらぷらしようと、その店を通り過ぎていくと、フルーツ屋が目に入ってきた。店の前にベンチがあって、男性が一人、サンドウィッチらしきものを食べていた。ベンチ喫茶。おそらくこの方も、茶店を探したが見つからず、耐えきれず、このフルーツ屋さんで何かを買ってここで食べておられるのだろう。同じようなタイプの人間だと思った。しかし、真似はできない。彼が先にやってしまっているし、このベンチに一緒に腰掛けるわけにはいかない。チラッと見て、すーっと通り過ぎた。しかしこの先、茶店らしきものは見つからなかった。
フルーツ屋のところまで戻ると、男性はベンチからいなくなっていた。気になったので店に入ってみた。綺麗な果実が並んでいた。贈答用のものらしい。かなりこだわりのある店と見えた。そして左の棚には、あの、サンドウィッチ。これをあの方は食べていたのだ。フルーツサンド。高い。だが、美味しいですよ〜、と店員さんは言う。食べたいが、真似はできない。仕方なくフルーツジュースを買って、店の中でさくっと飲んだ。もうそろそろ教えてもらったカフェは開いているだろう。戻るとまだやっていなかった。腹が減ったのでとなりの蕎麦屋に入った。朝食に蕎麦か、と思ったが、蕎麦は好きだ。へぎそばをいただいて、カフェが開いたので入った。
中がとてつもなく広いカフェだった。外を眺めたかったので、窓際のカウンターに座った。ようやくありつけた。1杯のコーヒー。ホテルでもらってきた新潟日報を広げ、窓の外を眺める。よかった。あの本屋さんにお礼を言おう。
ようやくありつけた一杯のコーヒーと新潟日報