腹が減ったので、駅の方まで戻り飯屋を探した。ぐるぐる自転車を走らせ、駅前の居酒屋に入った。混んでいた。軽く酒とつまみをつつき、店を出た。もう一軒探した。少し移動すると、いい感じの看板が見えた。これは間違いないだろう。暖簾をくぐると、誰? という顔をされた。旅の者です、という顔をした。おでん美味しいよ、と薦められたので、それと瓶ビールをもらった。おでんを出し終わると店主とおかみさんは椅子に座ってテレビを見始めた。色々福山のことを聞きたかったが、そういう空気ではなかった。日本酒、とメニューにあったので何がありますかと聞くと、これしかないけど、とパックの酒をカウンターに置いた。嘉美心。地元の酒だという。それをいただいた。嘉美心をちびちび飲みながら、ふたりの後ろ姿を眺めていた。少し酔ってきたので、お店かっこいいすね、と声をかけると、色々話し始めてくれた。相当古い店だという。看板は店主がデザインしたと言っていた。暖簾はなんとか染めと言っていた。あまり覚えていないが、居心地がよかった。礼を言い店を出た。
なんとか染め
自転車を返さなければいけないので、駅に戻った。次の日はライブがあるのでもう宿に戻るか、と思ったが、なんとなくタクシーに乗り込んでみた。スナックとかある飲み屋街まで。そんなことを言ったのか。タクシーは少し走って止まった。それからしばらく歩いた。ラブホテルの上空に月が出ていた。明るかった。なんとなく今日は戻ろう、そう思った。
翌朝、宿まで主催者の車が迎えにきてくれた。高速で橋を渡ると40分ほどで伯方島に着いた。リハを終え、海の方まで歩いてみた。途中缶コーヒーを買って、15分ほどで海に着いた。キラキラしていて、こんな美しい海見たことない、とため息が出た。前日買った和菓子を取り出して食べた。うまい、うまいよ。店主は遥か海の向こうにいるけど、なんとなく、その気持ちは、届く気がした。