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提言2「大学等修学支援法の対象者を中間所得層まで拡大する。支援対象の上限を現在の標準世帯(4人世帯)年収380万円から、標準世帯(4人世帯)年収600万円まで拡大する。支援対象の年齢制限は撤廃し、すべての年齢を対象とする」
次は大学等修学支援法の支援対象を拡大する提言です。同法は支援対象を厳しく限定する選別主義に基づいているため、その改善を目指す内容だといえます。
提言1で普遍主義の重要性を主張し、そのうえで「選別主義の改善」を提言していることには疑問を感じるかもしれません。が、それはこの提言が近い将来に実現可能な政策案を打ち出していることと関係があります。
確かに、すべての高等教育の学費を無償化することが最終目標ですから、普遍主義を徹底するのが理想的です。しかし、高等教育については政府が長らく「受益者負担の論理」を掲げて予算を抑制し、授業料をはじめとする学費が上昇し続けてきました。給付型奨学金や大学等修学支援法で、ようやく一部の低所得世帯出身の学生への支援が実現したのが現状です。政府によって押しつけられた高等教育の「受益者負担の論理」は、一般の人々にもかなり浸透しています。「経済的に豊かな世帯の出身者は自分で何とかできるのだから、支援をする必要はない」と考えている人も少なくありません。
そんな状況下で、高等教育の無償化に向けて普遍主義を今すぐ徹底することは困難です。大学等修学支援法を中間所得層まで拡大することによって、高等教育の学費が公的に支えられることの価値を認識する人々を増やしていくステップを踏むことが、将来の高等教育無償化実現へ向けて重要なことだと考えます。この提言2の「選別主義の改善」は提言1の「普遍主義的支援」とセットで提案されていますから、全体としては分断を生み出さない工夫もしています。
支援対象を標準世帯(4人世帯)年収600万円まで拡大することの根拠は、本連載「生活保護世帯の大学進学はなぜ反対される?」ですでに論じました。家族3人暮らしで子ども1人を大学に通わせるには、どんなに生活水準を落としても年間約600万円必要です。言い換えれば、年収600万円の世帯が大学生1人を養うと、生活保護なみの暮らししかできないことを意味します。この状況を考えれば、年収600万円世帯まで支援を拡大することは必要でしょう。
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この提言1と2に加え、提言3〜5は奨学金制度の改善、提言6と7は職業訓練への公的支援の充実をうたっています。詳しくは中央労福協のプレスリリース「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減に向けて 中央労福協の研究会が政策提言を発表」をぜひお読みください。
3月8日の文科省記者クラブでの記者会見はテレビ、新聞など数多くのメディアで報道され大きな注目を集めました。それは、高等教育の学費や奨学金への社会的関心が、これまで以上に高まっていることを意味しています。「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減へ向けての政策提言」は、高等教育進学率80%時代において、すべての若者が安心して学べることを目指した提言です。この提言を1人でも多くの人に知っていただき、実現へ向けて努力を開始したいと考えています。