ある受験生が「親には帰宅が遅くなることを連絡してあるか」と聞くと、試験監督は「連絡する」と答えましたが実際には保護者への連絡はなされませんでした。解散予定時刻の15時40分を過ぎ、17時になっても子どもが帰宅しないので試験会場の門まで迎えに行った保護者もいました。生徒が帰宅したのは18時頃だったということです。
私はまず、試験がいつ始まるかも知らせず、親に連絡もできない状態で生徒たちを約5時間も教室で待機させたことに驚きました。そして特に、ドアに鍵をかけたという事実に衝撃を受けました。それは「軟禁」といっても過言ではありません。タブレットの不調のため円滑な受験ができなかった生徒たちを1室に閉じ込め、鍵までかけるという行為は、公正な受験というそれ自体としては正当な目的を達成する手段として、妥当性を欠いているのではないでしょうか? これらの内容がすべて事実であるならば、これは中学3年生の子どもに対する虐待にあたると私は思います。
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以上の情報の信ぴょう性を示すものとして、この保護者から提供していただいた都教委が12月4日付で生徒・保護者宛に送付した「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J YEAR3)の試験終了時刻の遅延について」という通知書があります。そこには、タブレット端末の不具合により生徒を長時間待たせたことに対する「お詫び」と、同封された別紙「再試験の受験機会について」には、「午後5時以降」に受験した生徒は希望すれば「再試験の機会を御提供」するともありました。
書面からは、情報提供があった会場の受験生たちに過酷な苦痛を与えたことを都教委が認めて謝罪を行い、特別な措置を決めたことが分かります。しかし、そこには大きな疑問も生じます。
まず、都教委が謝罪文を出したということは、「試験運営の誤りを認めた」ということを意味します。その一方で、小池知事も坂本教育長も「試験は適切に実施された」と繰り返し発言しているのはいかがなものでしょうか。
次に、17時以降にESAT-Jを受験した生徒にだけ再受験の機会を与えるということですが、17時前に試験が始まったグループの中にもコンディションが崩れた受験生がいた可能性は低くはありません。受験開始が17時以前か以降かで、試験運営者が勝手に線引きをするのも疑問です。
さらに「#ESATJ実施状況調査2024」によれば他の会場でも受験機材のトラブルで待機させられた生徒は大勢おり、試験を1回しか受けられない受験生と2回受けられる受験生が出るのは不公平です。
試験運営の落ち度によって受験生に十分な受験環境を提供できず、にもかかわらず「適切に実施された」との発言を繰り返し、誠意ある対応を行わない姿勢は、都立高合格に向けてESAT-Jを真剣に受験した中学3年生たちの「大人への信頼」を裏切る行為です。東京都教育行政は今回の試験運営の不備の責任を認め、受験生と保護者、都民にトラブルを公表し、ESAT-Jの都立高入試活用は見直しを検討すべきだと思います。