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【提言】公的な住宅手当(家賃補助)制度を拡充する
低所得の若年単身者に対する住宅支援としては、低家賃住宅のストック拡充以外にも検討すべきことはあります。例えば、社会住宅・非営利住宅への斡旋だけでは居住場所が限定されてしまう上、ライフスタイルに合わせた自由な住居選びができないなど不利益が生じます。そこで民間賃貸住宅の家賃負担軽減につながる、公的な住宅手当(家賃補助)の支給が求められてきます。
世界的に見ると公的な家賃補助制度はヨーロッパ諸国だけでなく、アメリカも含めて先進国では一般的なものとなっています。それに対して日本では、公的な家賃補助制度は生活保護制度の「住宅扶助」や生活困窮者自立支援制度の「住居確保給付金」ぐらいしかなく、普遍的な制度が欠落しています。また、日本でもよく知られている住宅手当(家賃補助)は、福利厚生制度のある企業や公的機関が所属する社員や職員に対して支給するものですが、日本経済団体連合会の調査によると、企業の住宅手当の額は2000年以降減少傾向にあります(日本経済団体連合会「2018年度福利厚生費調査結果」)。
若年層に対する住宅手当(家賃補助)制度の必要性が増しているのは、低家賃の民間賃貸住宅が減ったからでもあります。前出の平山洋介氏による調査「住宅統計調査報告」と「平成30年住宅・土地統計調査報告」の分析によれば、借家世帯全体の中で月額家賃3万円未満の住宅に住む世帯は、1988年には47.6%に達していました。しかし2018年には、その割合は17.5%と大幅に減少しています(『「仮住まい」と戦後日本』より)。所得が低いままの若年層からすれば、単身用アパートなどに入居して「離家」することさえ困難になっていると言えます。
全体として所得の低い若年層にとって公的な住宅手当(家賃補助)制度の拡充は、住宅費負担を軽減し、住まいの選択肢を拡大することにつながります。
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【提言】高等教育を受ける学生への住宅費支援を強化する
高等教育を受ける学生に、「学費」と「生活費」はとても重くのしかかっています。特に都市部の賃貸住宅の高い家賃は生活費を押し上げ、「親元から通う」自宅通学生を増加させています。日本学生支援機構の「学生生活調査」によれば、たとえば私立大学(昼間部)の自宅通学率は、04年の56.4%から22年の66%に上昇しています。
私が愛知県の中京大学に勤務していた10年代、近隣の三重県や静岡県から片道3時間以上かけて通学する学生が一定数以上いることに驚きました。自分が学生だった1980年代後半には、片道2時間以上かけてまで実家から通うような学生は、極めて少数だったからです。現在、勤務している東京都内の武蔵大学でも、群馬県から通学しているという学生に出会いました。
自宅通学生の増加は、通学のため長時間を費やさなければならない若者が増えたことを意味し、講義やゼミに加えてサークルやボランティアなどの自主活動にも悪影響を与えています。私のところにも、学生から「通学時間が長い」ことを理由に「ゼミ活動に時間が割けない」「サークル活動をあきらめた」などの声が多数届いています。
大学での自宅外通学者の減少は、自宅通学者の意識にも波及しています。自宅外通学者の存在は、「一人暮らし」の自由や大変さを自宅通学者にも間接的に知らせる機会となっていました。自宅外通学者の減少によって、自宅通学者は「一人暮らし」のリアリティを感じ取ることが以前よりも難しくなっています。
かつて大学生となることは、高校時代と比べて親からの精神的距離を広げ、「自立するための準備期間」としての意味を強くもっていました。しかし「離家」の困難は、「自立するための準備期間」としての大学生活という意味を希薄化させています。「自立」への見通しや必要性がなければ、一人の独立した人格として思考し、判断する力、社会を認識する力を身につける動機は生まれにくくなります。
高等教育機関での学生たちの学びを充実させるためにも、学生の住宅費支援を強化すべきです。施策としては地域単位での学生寮の設置と、それに対する税制支援、自宅外通学生への家賃補助や給付型奨学金の拡充などが求められます。
「住宅費負担軽減に関する提言」には、他にも「『ハウジングプア』(住まいの貧困)と『高い住宅費』を社会問題として可視化する」、前項について「政府・自治体に本格的調査を実施することを求める」、「NPOや困窮者支援団体の居住支援を促進する」などを掲げています。
住宅費の高さは、若者の生活を苦しくするだけでなく、多くの若者に「親同居」を強いることでライフコースの自由選択を強く制約しています。今回、「高等教育費負担軽減へ向けての研究チーム」および「学びと住まいのセーフティネット研究チーム」が明らかにしたのは、これからの若者には教育費だけでなく「住宅費の負担軽減」も必要だということです。私たちが公表した7つの提言を広めていくことで、「若者を救う」住宅政策の実現を目指したいと思います。