ルフィ事件の指示役は17〜21年にかけて特殊詐欺を、22年からは押し込み強盗を計画するようになりました。特殊詐欺からより凶悪なトクリュウ型犯罪へ――という社会全体の流れと軌を一にしていることが分かります。
特殊詐欺の被害額は15年以降、減少を続けていました。しかしトクリュウによる強盗・殺人などの凶悪化が進んだことで、減りかけた被害額は近年、急速に増加しています。22年の被害総額は370億円で、23年は452億円、24年は718億円を計上。25年は7月までで722億円と、過去最高額を更新しています。
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こうした特殊詐欺被害の増加には、コロナ禍以降の経済悪化の影響があります。加えて円安に伴う物価高もあって、22年4月から24年5月まで実質賃金は26カ月連続でマイナスとなりました。この経済悪化は、所得・貯金額ともに少ない10~20代の若者の生活を直撃しています。
金融広報中央委員会の「令和4年 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」によれば、20代の金融資産保有額の中央値はわずか20万円でした。仕事を失ったり、家族の支援が得られなくなったりすれば、経済的にすぐに窮地に陥る状況が広がっています。特殊詐欺の「ハードルの低い」巧みな勧誘に、吸い寄せられる若者は少なくないと言えるでしょう。
警察やメディアによって、特殊詐欺の撲滅に向けたキャンペーンは続けられています。金融機関のATMでは特殊詐欺への注意喚起が常に発信されていますし、私が住んでいる地域の掲示板にも警察による啓発ポスターが多数掲載されています。また、NHK総合の情報番組「首都圏ネットワーク」には「STOP詐欺被害!私たちはだまされない」というコーナーがあり、ほぼ毎日のように警戒を呼びかける放送も行われています。しかし、これだけ警戒が呼びかけられているにもかかわらず詐欺被害額が急増しているところに、現在の深刻な状況があらわれているのです。
法務省の「令和3年版 犯罪白書」によれば、特殊詐欺事案で検挙された人の約72.1%が30歳未満とあり、多くが若者であることが分かります。組織犯罪の末端の多くを、若者が低い報酬で担わされています。まずは特殊詐欺の危険性について、若年層への啓発を行うことは極めて重要です。「簡単に収入が得られる」という巧みな誘いがトクリュウのようなグループによる凶悪犯罪の入り口となることを、さまざまな方法で繰り返し伝えていく必要があるでしょう。
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啓発活動に加えて、「若者の貧困」への支援を充実させることも求められます。高い学費と住宅費、貸与中心の奨学金制度、親からの経済的支援の減少、経済的自立が困難な最低賃金の低さなど若年層をとりまく経済状況は深刻であり、些細なことから貧困に陥る危険性はとても高くなっています。
そうした状況であるにもかかわらず、若者への経済支援や社会保障制度は極めて不十分です。加えて奨学金制度を始めとする公的な経済支援の多くは「申請主義」を取っていることから、援助が遅れたり、制度そのものに辿り着けなかったりすることが少なくありません。そうしたことも犯罪集団による巧みな誘いに吸い寄せられる要因の一つとなっています。この状況を変えるためには、若者からの申請を待つのではなく、行政側が積極的な支援を届けるアウトリーチを実践することが重要でしょう。
繰り返しますが、闇バイトなどを入り口にした若者の犯罪は、次第に凶悪化しています。被害者を踏みつける卑劣な犯罪は、許されるものではありません。また、若者がこのような犯罪の加害者となることは、人生に大きなダメージを与えると同時に、彼らが学び、社会で活躍する機会を失わせることで社会全体にも大きな損失となります。そうはならないよう、皆が力を合わせる時だと思います。