橋本教授の講演後、永田さんとの対談となりました。永田さんは、格差拡大が80年代から始まっていることを早期に明らかにした橋本教授の研究報告について「画期的」と評しました。また「公共サービスの再公営化」を掲げる岸本聡子杉並区長の政策との関連で「橋本さんは『公共』についてどう考えますか?」と問いかけ、それを受けて橋本教授は「格差拡大が社会全体に害を及ぼす」という考え方を進めれば、それを食い止めるには「社会全体の問題を自分の問題として引き受ける姿勢」「自分の利益に反してでも格差縮小が必要だと考える姿勢」が必要で、これらは「公共」という考えにつながるだろうと回答されました。
対談の中で最も印象深かったのは、永田さんから自身が関わった80年代の「いじめ」など教育問題を扱ったNHKの番組について「意図はなかったものの結果的に公教育や公立学校叩きを後押しし、教育の私事化や規制緩和を進める新自由主義改革を下支えしたのではないか?」という自省を含めた問いかけがなされたことでした。公教育の問題点を批判する報道が「教育の私事化」を促進することで、「公教育の再生」になかなかつながらないジレンマについては、私も以前から論じてきました。永田さんと問題意識を共有していることが分かって嬉しくなりました。
◆◆
今回の学習会は総じて、日本社会における80年代からの格差拡大を、歴史過程の中で構造的に明らかにする内容でした。これは現代における「若者の貧困」が彼ら自身の努力不足など「自己責任」によって生じたものではなく、非正規雇用の急増による格差社会化、その延長上に登場した「新しい階級社会」という構造的要因によって生み出されたものであることを示しています。奨学金利用者の急増、ブラックバイトの登場など、私がこれまで取り上げてきたテーマもそうした構造的要因との関係の中で捉えると問題点がより明確に見えてきます。
今後の若者を考える上で重要なのは、橋本教授が言及された「アンダークラスがいまの規模で存在する限り、他の階級からその担い手が調達されなければならない」という点です。親/保護者の貧困によって進学できない若者、奨学金を利用して卒業後の返済に苦しむ若者、ブラックバイトによって学校で十分に学ぶことができない若者、正規雇用されず不安定かつ低賃金に苦しむ若者、こうした若者たちがアンダークラスとして社会の底辺に固定化されてしまう危険性があります。しかもそれは資本主義の崩壊など、若者だけでなく日本社会全体の危機にもつながりかねないということです。
「アンダークラス」「新しい階級社会」という捉え方の有効性と、その打開策については今後も考えていきたいと思います。