2026年5月18日、私が共同代表をつとめる「奨学金問題対策全国会議」が文部科学省の記者クラブで記者会見を行いました。この組織は13年3月に結成され、奨学金返済困難者の救済と奨学金制度の改善に取り組んできました。
今回、記者会見を行ったのは金利の上昇によって、日本学生支援機構の有利子奨学金の返済負担が変動している問題を訴えるためです。有利子奨学金の利率は日本銀行の金融緩和策もあって、長年低く抑えられてきました。しかし金融政策の変更に伴い、近年急上昇することとなりました。
日本学生支援機構の有利子奨学金には、「利率固定方式」と「利率見直し方式」とがあります。利率固定方式とは、奨学金の返還完了まで適用される利率が一切変わらない仕組みです。この方式では将来、市場金利が変動した場合も、利率は変わりません。これに対して利率見直し方式は、貸与終了時に決定した利率を、おおむね5年ごとに見直す仕組みです。この方式では将来、市場金利が変動した場合はそれに伴って利率も変わります。
利率固定方式の場合、有利子奨学金の利率は22年3月の0.369%から26年3月の2.423%と6倍以上に増加しています。利率見直し方式の場合、22年3月の0.04%から26年3月の1.6%へと40倍にも増加しています。有利子奨学金の利率が大きく上昇していることが分かります。
利率の上昇は、奨学金返済負担を大きく増加させます。たとえば、月10万円の有利子奨学金(利率固定方式)を借りた場合はどうなるでしょうか? この学生が卒業までの4年間に借りる奨学金の総額は480万円です。22年3月(利率0.369%)に卒業した学生の返済総額は約498万8608円であり、利子総額は18万8608円です。それに対して、26年3月(利率2.423%)に卒業した学生の返済総額は611万8312円となり、利子総額は131万8312円まで膨らみ、22年3月に卒業した学生よりも100万円以上負担が増加します。これは、卒業後の生活設計にまで影響を与える規模の増加だと思います。
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ここで重要なのは、有利子奨学金の利率が決まるのが、奨学金を申し込んだり、利用し始めたりする時期ではなく、学生の卒業時など貸与終了時点だということです。申し込み時や入学時におおよその目安としていた利子が、実際に返済する時には大きく増える事態が起きているのです。
「そもそも有利子奨学金の制度がそうなっているのだから、負担が増えても仕方がない。負担増があることも想定して有利子奨学金を利用すべきだ」という意見の方もいらっしゃるかも知れませんが、有利子奨学金を申し込む高校3年生や大学・専門学校の1年生に、急激な利率の上昇を想定した上で利用を決定すべきだというのは、酷な要求だと思います。
有利子奨学金の返済負担増は、奨学金を利用する若者の生活を直撃します。近年、大卒・専門学校卒の就職率は好調が続いていますが、若者の雇用が安定したとはいえません。厚生労働省の調査によれば、22年3月卒業生の大学卒業後3年以内の離職率は33.8%で、18年3月卒業生の31.2%を上回っています。離職した後、スムーズに転職できる若者もいるでしょうが、その一方で失業したり非正規雇用労働者となったりする若者もいます。結果的に23年の25~29歳の非正規雇用労働者率は24.2%、30~34歳では28.7%に達しています(厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査の概況」)。失業者や低賃金の非正規雇用労働者の場合、有利子奨学金返済負担の増加は、彼らの生活に大きな困難を強いることになるでしょう。
正規雇用労働者の場合にも、有利子奨学金の返済負担増は重くのしかかることになります。特に就職をする際に実家を出て、社会人として一人暮らしを開始することになれば、住宅費を含めた生活費すべてを自分で賄うことになります。総務省の調査によれば、24年の単身世帯・民営借家の生活費は、平均18万7629円でした(総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2024年」)。正規雇用労働者であっても、これだけの生活費を支払い、さらに税と社会保険料を支払った上で奨学金返済をすること自体、一部の高所得者を除けば、容易なことではないでしょう。ここに利率上昇による返済負担急増が加われば、返済に苦しむ正規雇用労働者は少なくないと予想されます。
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返済困難に加えて、有利子奨学金の返済負担急増は若者のライフコースにおける選択を強く制約する危険性が高いでしょう。労働者福祉中央協議会は15年、18年、22年、24年と継続して奨学金等に関するアンケート調査を行い、その中で「奨学金返済による生活設計への影響」についてたずねています。具体的な項目としては、結婚、出産、子育てなどがあります。
調査結果を見ると、奨学金返済が結婚、出産、子育てなどに与える影響(=奨学金返済が結婚、出産、子育てを妨げる影響)は、増加傾向にあります。結婚への影響は15年の34.2%から24年の44.3%、出産への影響は15年の22.9%から2024年の38.2%、子育てへの影響は15年の26.4%から24年の37.0%と、いずれも10ポイント以上増加しています。奨学金返済が、若者の結婚や出産、子育てというライフコース上の選択を強く制約していることが分かります。
有利子奨学金の返済負担急増は、こうした若者のライフコース上の選択を、これまで以上に強く制約することになるでしょう。25年、出生数は67万1236人と1899年の統計開始以来最少となり、少子化と人口減少は重大な社会問題となっています。結婚するか否か、出産するか否かはあくまで個人の自由ですが、結婚や出産を望んでいる若者が、それらをあきらめなければならないような経済的・社会的条件は是正する必要があります。有利子奨学金の返済負担急増は、少子化や人口減少問題の解決を目指している、現在の政府の方針とも対立する関係にあるといえるでしょう。
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卒業後の返済困難やライフコース選択の制約に加えて、有利子奨学金の負担急増は、大学・専門学校生活にも悪影響を与えます。有利子奨学金利用を避けることによって、学生の「アルバイト漬け」が進み、学業などに力を入れられなくなることです。
13年、奨学金問題対策全国会議が結成されて以降、奨学金制度は着実に改善してきました。結成当時、日本学生支援機構の奨学金は貸与のみで、返済の必要がない給付型は存在していませんでした。また、奨学金の拡大をはかった1999年の「きぼう21プラン」実施以降、有利子奨学金の割合が急増し、無利子奨学金を大幅に上回る状況が生まれていました。
奨学金問題対策全国会議は有利子奨学金の無利子化と、給付型奨学金の導入を目指して運動を開始しました。運動開始以降、無利子の増加と有利子の減少が進みました。2017年には給付型奨学金が導入され、20年、給付型奨学金と授業料等の減免をセットにした高等教育の修学支援制度がスタートしました。