インターネットを通じて個人が仕事の受発注を行うことで成り立つ経済形態のこと。スマートフォンなどにアプリケーションをダウンロードして、契約から仕事の受発注までが行われる。「プラットフォーム・エコノミー」「シェアリング・エコノミー」とも。また、そのためにネット上で提供されるビジネスの場=仲介サイトは「プラットフォーム」と呼ばれる。
近年ギグ・エコノミーとして世界中で広がっているのが、日本では「道路運送法」などの規制もあって実施できないライドシェア(自動車の相乗り)だが、この他にも出前サービス、デザイン、文書作成、民泊、宅配、家事代行などあらゆる分野で拡大している。
受注を受けて働く者は「ギグ・ワーカー」といわれ、労働契約ではなく請負契約で個人事業主として就労している。ギグ・ワーカーは就労したいときにアプリケーションを起動して仕事を受注するため、いつ・どれくらい働くのかといった自由度が高い一方で、仕事も収入も流動的で不安定である。個人事業主とされているため労働法の適用外に置かれ、社会保障も脆弱で、病気やケガに見舞われればたちまち収入が途絶え、かつ、治療費がかかり生活が破壊されかねない。
ギグ・エコノミーの代表ともいえるアメリカのウーバーテクノロジーズ社は、世界各地で主にライドシェアによって業績を伸ばしてきた。しかし、同時に最低補償や労災保険の適用などを求める訴訟が相次いだ。2018年4月にアメリカのカリフォルニア州最高裁判所で出された判決は「雇用責任を逃れようとする使用者が立証の責任を負う」べきだとして、働き手が労働者ではなく個人事業主であることの立証責任を使用者に課した。その後、この判決をもとに、使用者が、働き手が労働者に該当しないことを一定の基準に基づいて証明できない場合は、すべて労働者とするというカリフォルニア州法(AB5法)が成立し、2020年1月から施行されている。
このように「労働者」の概念を広げたアメリカに対して、ヨーロッパではフランスが、「独立労働者」という一般の「労働者」とは異なるカテゴリーを創設し、プラットフォームによる労災保険料の負担などの特別な社会的保護や責任を定めている。
現時点で日本のギグ・エコノミーの典型例は、出前サービスを行う「ウーバーイーツ」だが、さらに様々な分野でギグ・エコノミーの拡大が予想されることから、厚生労働省が学識経験者を集めて「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催し、報告をまとめた。今後、法改正を含めて議論が始まることが見込まれている。一方、ウーバーイーツの配達員が労働組合を結成して団体交渉を求めたことで、その労働者性をめぐる争いはすでに始まっている。
日本にライドシェアを導入するため規制緩和を求める意見も根強い。現在はウーバーテクノロジーズではなく、中国企業の滴滴(ディディ)が、システムをタクシー会社に売り込み、シェアを広げている。また、ウーバーイーツをはじめとした出前サービスが大都市部で広がっており、複数のプラットフォームが乱立している。その多くは外資系だが、日本のベンチャー企業の参入も見られる。このように、世界各地でそれぞれの分野でプラットフォームのシェア争いが本格化している。
日本国内で広がりつつある、個人宅に配達する宅配サービスのギグ・エコノミーについては、アマゾンが自社の顧客に配達する会社(アマゾンフレックス)を設立しているが、今のところベンチャー企業を含めて国内企業が多い。また、国内大手のヤマト運輸がギグ・ワーカーなどの個人への配送委託に乗り出すことを表明している。こうした動きが進めば、運輸業界が大きく変貌していくことも考えられる。
なお、ギグ・エコノミーの「ギグ(gig)」は、元々はジャズやロックなどでなじみのないミュージシャン同士が、その場限りで共演する単発のライブを意味する言葉だったものが、広い意味で使われるようになったといわれている。