貧富の格差を縮小し、社会全体を豊かにするために、中国の習近平政権が2020年10月29日の中国共産党第19期中央委員会第5回総会(五中総会)で言及し、2021年3月の第13期全国人民代表大会で明確化した重点目標のこと。低所得者層の教育費負担の軽減、年金や医療保険における格差解消、最低生活保障水準の引き上げ、賃貸住宅の整備などを挙げている。
「共同富裕」は、もともと毛沢東が提起した概念であり、鄧小平も改革開放の未来図としていわゆる「先富論」を掲げた際に、「先に発展した地域が遅れた地域を引き上げ、最終的に共同富裕に到達する」と述べている。
中国は社会主義を堅持しているが、江沢民政権下で2000年に導入された「三つの代表」理論によって民間企業家も共産党員の資格が得られるようになり、現在では、労働者階級の敵であったはずの資本家が中国社会で存在感を増している。「三つの代表」とは、中国共産党は①先進的な社会生産力の発展の要求②先進的文化の前進の方向③最も広範な人民の根本的利益を代表するという考え方である。
改革開放政策で開始した「社会主義市場経済」(中国の特色ある社会主義)も、計画経済であるはずの社会主義に市場経済を導入するという矛盾を孕んでいた。「共同富裕」には、こうした中で広がり続ける貧富の格差を縮めようという意図もある。
富の分配の方法には、市場経済の中で行う「第一次分配」、税・社会保障や財政支出によって格差を是正する「第二次分配」、寄付や慈善によって富裕層の富を移転する「第三次分配」がある。共同富裕の政策では税制改革も検討されているが、中心は第三次分配である。
習近平が共同富裕について述べた2021年8月17日の共産党中央財経委員会の後、IT大手・テンセントは「共同富裕プロジェクト」として、農村振興や低所得者向けの医療・教育支援事業などに500億元(1兆160億円)を拠出すると宣言した。ネット通販大手のピンドゥオドゥオは農民支援に100億元(2032億円)、アリババグループは2025年までに1000億元(2兆320億円)の拠出を表明するなど、追随する動きが広がった。
さらに習近平政権は、家計への負担の軽減を考慮し、義務教育段階の全ての学習塾を非営利組織化するという「塾禁止令」を出し、オンラインゲームのプレー時間を制限した。また、成長が著しい大手IT企業などを独占禁止法で取り締まり、「不正収入」「不合理収入」に対して多額の罰金を科した。社会的に影響力のある芸能人やインターネットでよく知られている「インフルエンサー」などへの摘発も強化している。
富の分配を本格的に進めるのであれば、本来は寄付などの第三次分配ではなく、固定資産税や相続税の導入、所得税の税率の見直し、社会保障の地域格差の是正など、第一次分配、第二次分配における制度改革を行うべきであろう。しかし、選挙による政権交代のない政治システムの下で、人々の不満が高まれば体制を安定的に保てなくなる。そのため、中間層・既得権益層全般の反感を買うことなく、それ以外の層の支持も得るために、第三次分配に重点を置いていると見られる。