正しくはウィル・アイズナー・コミックス業界賞。日本でいう「ストーリーマンガ」を対象とする国際的にもっとも認知度の高いマンガ賞のひとつ。
2022年7月、「ポーの一族」などで知られる萩尾望都が、国際的なコミックス文化への貢献をたたえるホール・オブ・フェイム(Hall of Fame)を受賞した。
1985年にまずコミックブックにおけるもっとも尊敬されるアーティストのひとりである「ジャック・カービー(Jack Kirby)」の名を冠したジャック・カービー・コミックス業界賞(Jack Kirby Comics Industry Awards)として始まり、同賞を主催していたコミックス情報誌『アメージング・ヒーローズ(Amazing Heroes)』(Fantagraphics刊)が1987年に休刊したのに伴い、ハーベイ・カーツマン(Harvey Kurtzman)とウィル・アイズナー(Will Eisner)という別な二人の偉大なコミックス作家の名前をそれぞれ冠した二つの賞に分裂した。
アイズナー賞はそのうちジャック・カービー賞を設立したデイブ・オルブリック(Dave Olbrich)が立ち上げたもので、毎年夏にコミックスファンのイベント、サンディエゴ・コミックコン(San Diego Comic-Con)で発表され、授賞式が行われている。
主にアメリカで出版されたコミックスを対象に作品、作家等を顕彰するものだが、翻訳された海外作品を対象にする部門も存在し、ホール・オブ・フェイムには英語圏以外の作家も選出されている。グローバルな「マンガ文化」全般を対象にした賞だといえる。
日本人受賞者としては1998年に田中政志が『ゴン』で最優秀ユーモア部門(Best Humor Publication)、海外作品部門(Best U.S. Edition of International Material)の2部門を受賞したのをはじめ、沙村広明(2000年『無限の住人』)、小池一夫、小島剛夕(2001年『子連れ狼』)、大友克洋(2002年『アキラ』)などが主に海外作品部門を中心に受賞。
2007年から2009年には海外作品日本部門が設けられ、2010年からは海外作品アジア部門が設立されたことで、松本大洋(2007年『鉄コン筋クリート』、2020年『ルーヴルの猫』)、辰巳ヨシヒロ(2010年『劇画漂流』)、浦沢直樹(2011、2013年『20世紀少年』)、水木しげる(2012年『総員玉砕せよ!』、2015、2016年『コミック昭和史』)、田亀源五郎(2018年『弟の夫』)など、より多様な作家、作品が受賞するようになり、2019年に『フランケンシュタイン』(メアリ・シェリーの同名の小説のコミカライズ)で受賞して以降、コンスタントに複数部門を受賞する伊藤潤二のような海外作家の枠を超えた評価をされる作家も登場した。
2002年に手塚治虫が受賞して以降はホール・オブ・フェイムでの日本人作家の受賞も増えており、2004年に小池一夫と小島剛夕、2012年に大友克洋、2014年に宮崎駿、2018年に高橋留美子といった、日本国内で巨匠として評価される作家が確実に贈賞されるようになってきている。2022年の萩尾望都の受賞もこの文脈に連なるものであり、アメリカにおける日本マンガ文化の紹介が着実に進んでいることを感じさせる。
また、2018年にベストアーティストなど作画を担当した『モンストレス』が5部門を受賞したタケダサナに代表されるように、アメリカの出版社と契約してオリジナル作品を担当し評価される日本人アーティストも増えてきている。