2022年4月1日施行の改正少年法で新たに導入された18歳・19歳少年の位置付けのこと。
おとなと子どもの線引きには、ここ数年で大きな変化が生じている。2016年には公職選挙法の選挙権年齢が18歳に引き下げられ、2022年4月1日からは民法の成人年齢が18歳に引き下げられた。また、2023年4月以降には、刑事裁判の裁判員に18歳が選ばれる可能性があるなど、おとなの基準が18歳へとシフトしている。
少年法も同じである。少年法は「少年」を「20歳未満」と規定してきた。これを改正公職選挙法の附則の要請に従い、民法と同様に18歳に引き下げるか否かについて、「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」(2015~16年)や法制審議会(2017~20年)で議論が続いた。けれども、ほかの法律とは異なり、少年法が少年の健全育成の機能を果たしてきたことから、引き下げには反対の声が多かった。
その結果、2022年4月1日に施行された改正少年法では、20歳未満の若者に対して、20歳以上とは異なる教育的な対応を行うべきだとして、少年法の基本的な枠組みを維持しつつ、民法では成人年齢に当たる18歳・19歳の少年を「特定少年」とし、17歳以下の少年とは異なる手続きを導入することになった。
特定少年は、「責任ある主体として積極的な社会活動が期待される立場」であると同時に、「成長途上にあり、可塑性を有する存在」であるという二重性を持つとされ、少年法上の少年でありながら、「責任ある主体」であることが強調される法制度となった。
特定少年は、民法上は成人であることを理由に、このまま放置すれば将来非行・犯罪を行う可能性があることを意味する「虞犯(ぐはん)」を理由として少年審判(少年の更生を目的に行う非公開の審判手続)に付すことができなくなった。これは、少年の抱えている問題を早期に解決する機会が失われることを意味する。
また、改正少年法は、家庭裁判所に送致された少年の更生支援のために行われる「保護処分」についても、特定少年については「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内」(64条1項)においてという限定を設けた。少年の抱えている問題性(要保護性)ではなく、行った「犯罪の軽重」が重視される条文となった。
保護処分のうち、社会の中で保護観察官と保護司が更生の支援を行う「保護観察処分」については、6月か2年のどちらかとなり、2年の処分が言い渡された少年に遵守事項違反があった場合には、新たに創設された第5種少年院で、保護観察官と法務教官が協働するプログラムが実施される。「少年院送致」についても3年を限度とする期間の制限がつけられた。少年院では、特定少年に対して成人であることを意識した「成年社会参画指導」が行われる。
保護処分ではなく刑事処分が相当として家庭裁判所が原則として検察官送致を行うべき事件の範囲も、従来の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に加えて、特定少年については「死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪」にまで拡大された(62条2項)。また、罰金以下の罪の事件でも検察官送致が可能となった(同条1項)。検察官送致後に認められていた少年法における刑事事件の特例は原則適用されないこととなった。
なお、特定少年が刑事裁判で有罪となり刑務所で服役する場合には、26歳に至るまでは若年者で犯罪傾向が進んでいない者を対象とする「若年受刑者ユニット」で処遇が行われる。これは、他の受刑者から独立した空間で、矯正教育を取り入れた対話ベースの処遇を行うものである。
特定少年の事件も、他の少年事件同様、検察送致となると起訴されることになるが、起訴後は実名報道が認められるようになった(68条)。とはいうものの、現状では検察が実名を公表した事件のすべてが実名報道されているわけではない。報道する場合も、デジタル版では氏名を公表しないなど、報道機関が少年の更生について個別に検討し、少年の更生を支援する責任を果たそうとしていることがうかがえる。
特定少年は、少年法上は、あくまで未成熟で成長発達途上にある少年である。そして、その非行の背景には、虐待やいじめなどの被害が存在する。そうした被害を見過ごすことで特定少年を加害者にしてしまった社会の責任は、少年を法律上の「責任の主体」と規定しても当然、残り続ける。少年非行を防止するおとなの責任が今回の改正で改めて問われている。