取り組むタイトルは、時期によって増えたり減ったりするので常に一定数ではありませんが、当時の主力部門は「カウンターストライク」(バルブ・コーポレーション)、「スタークラフト」(ブリザード・エンターテインメント)、「Dota 2」(バルブ・コーポレーション)、「リーグ・オブ・レジェンド」(ライアットゲームズ)、「コールオブデューティー」(インフィニティ・ウォード)。それと合わせて、私が所属していた格闘ゲーム部門がありました。EGは、日本ではなじみのない「Dota 2」というゲーム種目で2015年に世界大会優勝を果たし、約8億2170万円もの賞金を獲得したことで大変話題になりました。
「Dota 2」は5人1チームで戦うゲーム種目で、専属のコーチやマネージャーなどもおり、賞金の全額が1人の選手に入ることはありませんが、1人1億2000万円程度を得たのではないかと言われています。賞金総額22億円という、とんでもない世界大会での優勝でしたから、このニュースは日本でもいくつかのテレビがe-sportsを紹介するコーナーで取り上げていました。2015年の出来事なので、やっと日本でもプロゲーマーの存在が認知され始めた頃ですね。
チーム所属選手の懐事情は?
正直言うと、私がプロ契約をした最初の頃は、ゲームだけで食べていくには厳しい報酬(月給)条件でした。私は2011年からプロゲーマーとして活動しているので、今から5、6年前の話です。当時、出演した名古屋のテレビ番組でも「別の仕事をしながらプロゲーマーをやっているので大変!」みたいな話をしたことがありましたが、本当に大変でした。実のところ、東京に拠点を移した約3年前でさえ、収入は昔より格段に上がったとはいえ安定していなかったし、将来が不安でしたから、プロゲーマーをしながら青山や銀座のマルシェで野菜を売るアルバイトをやっていたこともあるんですよねー! あはは。
何というか、プロゲーマーという職業は憧れの対象であって欲しいという思いがあるのと、私は苦労している部分をあまり他人に見せたくないタイプなので、今まで内緒にしていましたけど(……苦労が積もり積もって爆発した時もありましたけどね!)。今、こうして「完全な専業」として、プロゲーマーの活動をさせてもらえるようになるまでには曲折がありました。
もちろん、海外大会出場のための交通費や宿泊費はチームが全額負担してくれましたし、そこで獲得した賞金も全額自分の収入になりました。ですが今から6年前は、アメリカの格闘ゲーム大会ですら優勝賞金が10万円とか、多くても30万円程度しかなかったので、賞金だけで日々を暮らすには厳しい環境でした。ちなみに17年はと言いますと、格闘ゲーム「ストリートファイターV」(カプコン)だけでも優勝賞金100万円程度の大会が国内外で年18回ぐらいありますし、年2回開催される世界大会で優勝すれば一つは600万円程度、もう一つは2000万円近い賞金が獲得できるのです。
それぞれのタイトルが昔以上に盛り上がっているかどうかは別として、市場の盛り上がりや環境としては……すごい時代になったものです。
Evil Geniusesとチームメイトたち
私がEGに所属していた頃は、Alexander Garfield(アレキサンダー・ガーフィールド)さんがチームのオーナーでした。彼はいつも「チームは家族である」「選手たちのことを何よりも大切に思っている」と言っていました。ですから、EGの営業スタッフやマネージャー、その他のスタッフたち皆がとても優しくしてくれました。
私がアメリカの大会に行った際は、チームメンバーたちやスタッフたちがよくディナーパーティーを開いて、親睦を深めてくれました。日本人のチームメンバーは当時、私と〈ももち〉だけだったのですが、彼らはいつも素敵なおもてなしをしてくれました。EGに在籍していた頃は、よく周りからも「ファミリー感の強い、いいチームだ」と言っていただきましたが、まさしく私たちはファミリーであったと言えるでしょう。
私が最も尊敬するプロゲーマーの一人であるアメリカのJustin Wong(ジャスティン・ウォン)選手も同じEGのチームメイトだったのですが、彼は私たちよりも数年早くからプロゲーマーとして活躍しており、アメリカ国内で超有名な選手でした。そんな彼は、私がまだプロゲーマーになりたてで悩んでいた頃、いつも素敵なアドバイスをくれました。また、陽気で明るくフレンドリーなムードメーカー、〈PR Balrog〉ことEduardo Perez(エデュアルド・ペレス)選手は、私たちがアメリカに2週間滞在する必要があった際、快く自宅に泊めてくれ、時には緑茶を買ってきて「アメリカ食に疲れていないか?」と気遣ってくれたり本当に優しかったです。
後日、彼らが日本へ来た時は、わが家に泊めたり、レンタカーを借りて空港への送迎をしたり、とにかく精一杯のおもてなしに努めました。そして私たちチームメイトは皆いつも、オーナーの言葉「チームは家族である」を大切にしていました。
そんなこんなでチームメンバー同士はもちろん、スタッフとも本当に仲が良かったです。私はEGというチームが本当に好きでした。移籍した今でもEGが好きだし、チームメイトだったメンバーのことも大好きです。彼らも「チームが変わっても、僕たちはいつまでもファミリーだよ。何があっても僕は君たちに協力したいと思っているから、何かあればいつでも相談して欲しい」と言ってくれ、今でもとても仲良しです。
私と〈ももち〉が日本で設立した「忍ism」という組織も、たまに「ファミリー感がある」と言っていただけることがあるのですが、それはきっとEG時代のチームメイトやオーナーの考え方に影響を受けているからかもしれません。
Echo Foxへの移籍理由とは
2017年1月1日から、私と〈ももち〉はアメリカのEcho Foxというチームに移籍しました。現在のEcho Foxは、北米の男子プロバスケットボールリーグNBAの元プレーヤーRick Fox(リック・フォックス)氏がオーナーとなって、16年初頭に発足したばかりのプロゲーミングチームです。新しいチームとはいえ、何せオーナーが超人気の元プロバスケットボール選手ですから知名度は申し分ないですし、何より素晴らしい選手が大集結したチームなので、17年には既に2年目とは思えない程の人気をe-sportsシーンの間で誇っています。所属プロゲーマーは約50人。スタッフは15人程度です。ロサンゼルスのビバリーヒルズにオフィスとシェアハウスを構える、どデカいプロゲーミングチームです。
なぜ私と〈ももち〉が大好きだったEGからEcho Foxへ移籍したかと言いますと、16年の末にとても慕っていたAlexander Garfieldオーナーがチームを離れることになり、EGに大きな転換期が訪れたことがきっかけです。私も〈ももち〉も、かねてから「変化すること」を目標に掲げて活動しており、ちょうど「変化が必要」だと考えていた時にEcho Foxから「うちへ来ないか?」と声が掛かりました。
カウンターストライク
テロリストと特殊部隊の闘いを描いたアクションシューティングゲーム。
スタークラフト
人類、エイリアン、宇宙人の種族間の戦争がテーマとなったゲーム。
Dota 2
チームを組み、力を合わせて相手の本拠地を破壊した方が勝利となるゲーム。
コールオブデューティー
兵士に扮したプレーヤーがさまざまな戦場で戦闘を行うアクションシューティングゲーム。
リーグ・オブ・レジェンド
それぞれのキャラクターを操作し、仲間と協力して相手の本拠地を破壊した方が勝利となるゲーム。