自動車レースのF-1や他のプロスポーツと同じく、プロゲーマーもチームに所属して活動することが多い。それらは「プロゲーミングチーム」と呼ばれ、力があると見込んだ選手とマネージメント契約を結び、さまざまなサポートによって成績を挙げさせスポンサーを集める。プロゲーマーを目指すなら、チームにスカウトされるのが最も近道ともいえよう。今回は日本ではまだなじみの薄い、プロゲーミングチームについて紹介する。
プロ契約とはどんなものか?
私は2011年7月、北米のプロゲーミングチーム「Evil Geniuses(イービル・ジーニアス)」(本拠地・カリフォルニア州サンフランシスコ)にスカウトされ、チーム所属のプロゲーマーとなりました。そして17年の1月には、現在も所属している「Echo Fox(エコー・フォックス)」(本拠地・カリフォルニア州ロサンゼルス)へと移籍しました。日本のプロ格闘ゲーマーで、このようにプロチームから別のプロチームへの移籍を経験した選手は、私と〈ももち〉が初なのではないかと思いますが、その話は後にして、まずはプロゲーミングチームとは何なのか、これをお話ししていきましょう。
説明を始める前に断っておきたいのですが、プロ契約はチームごと、選手ごとに全然違った内容になっています。チームの運営形態や方針についても、それぞれ独自のものが存在します。なので今回ここでご紹介する内容は、あくまでも私の経験に基づいたケースになります。その点をご理解くださいね。
まずプロゲーマーになるには、どこかのプロゲーミングチームに所属するか、企業から直接金銭的なスポンサードを受ける――大体この二つが選択肢となります。企業からスポンサードを受ける場合は、個人的にプロ活動(海外遠征)をしたり、実業団的に活動(部分的にスポンサードを受ける組織で労働)をすることになります。そしてプロゲーミングチームに所属する場合は、そのチームの一員となり、チーム名を表記したユニフォームを着て活動することになります。プロゲーミングチームに雇用される形となるわけです。
先述したように、チームとの雇用契約は選手ごとにされるので、同じチームメイトであっても契約内容は全然違います。また契約の際には守秘義務が課せられますので、他の選手の契約金額や付随する条件を知ることはまずありません。
なので私も詳しい金額まではお話しできませんが、私の契約を例に挙げると、固定の月給+海外大会への渡航費(交通費)全額+海外滞在中の宿泊費全額が支給される契約となっています。もちろん、これらの報酬やサポートを受け続けるには、チームから求められた仕事をこなしたり、一定の成果を挙げる必要があります。チームに貢献できていないとか、課せられた数字やコミットした職務を全うしていない、と判断されれば解雇されることもあります。
ゲーミングチームの存在理由
ではプロゲーミングチームはどうやって利益を生み出し、選手の雇用を可能にしているのかというと、やはり大きいのはスポンサー企業の存在です。現在ではヘッドホンなどのゲーム用周辺機器メーカー、ゲームソフトを動かす高性能パソコンのメーカー、はたまたエナジードリンクメーカーなど、さまざまな企業がチームへのスポンサード、つまり協賛をしています。なぜそれらの企業はプロゲーミングチームに協賛するのでしょう? それが分かればプロゲーミングチームの存在理由と、活動目標のヒントが分かります。私なりの見解では、答えはけっこうシンプルです。
大抵のプロゲーミングチームには、強くて有名な選手や、人気のある選手が所属しています。その選手たちが、チームのスポンサー企業の製品を使用したり着用しながら大会に参加し、メディアに出演します。ゲームの大会はインターネットやテレビで放送されますから、選手が映ることで、スポンサー企業の製品も一緒に映ります。それを見たファンなどが同じ製品を欲しいと思い、購入してくれたりします。
そう、要するにスポンサー費=広告費なんですね。ゲーミングデバイスという限定的な、ある種絞られたマーケットで、競合他社より優位に立つための広告費の一部。対象となるユーザー層に、よりピンポイントに刺さるマーケティングを実現し、ブランディングを行うための費用。多くの場合はそのように考えられます。チームでスポンサー費を集めて運用することで、より有力で人気のある選手も獲得でき、選手たちは個人で活動するより多くのサポートを受けてプレーに専念できるのです。
また、プロゲーミングチームに所属する選手たちは、スポンサー企業のためのPRイベントにも出演します。PRイベントとは、主にインターネットでの生放送やテレビCM、ゲームショーを始めとする展示会でのブースイベントなどを言います。ゲームをプレーして成績を挙げる他、多くのメディアに露出し、スポンサー企業のイベントにも出演する。こういったこともプロゲーマーの仕事であり、役割の一部なのです。所属選手が活躍したり、メディアに露出することで人気になれば、チーム全体の人気や知名度アップにもつながります。そうなればチームはより多くのスポンサーから協賛を得ることができます。ですからプロゲーミングチームは、強いだけでなく、発信力があったり、ネット番組をはじめ各メディアに露出ができるゲーマーと契約するのです。
コーチから住居までサポート
プロゲーミングチームには選手となるプロゲーマーだけでなく、多くのスタッフがいます。例えば、選手の大会参加のための航空券やホテルを予約したり、スケジュールやスポンサー企業との連絡管理をするマネージャー、選手たちのSNS活用についてアドバイスするマーケティングスタッフ、チームの戦績をホームページや動画サイトで発信するメディアスタッフ、スポンサー企業の獲得や渉外業務を行う営業スタッフ、また、チーム戦で競い合うゲーム種目にはコーチやアドバイザーなどのスタッフがいたり、そういった種目の選手たちは共同生活をするのが一般的なので、シェアハウスのメンテナンススタッフがいたりなどなど。さまざまなバックオフィス的なスタッフが存在し、彼ら全員でチームの成功のために日々働いているのです。
さて、ここからは私が実際に所属している(していた)チームについて紹介していきましょう。まず、私が最初に所属したチームは、「Evil Geniuses」(以下、EG)というプロゲーミングチームです。EGは1999年に設立された、アメリカでもかなり歴史のあるチームです。設立して20年足らずなのに「かなり歴史のある」と言える辺りが、e-sports市場の新しさを物語っていますよね。
オフィスはサンフランシスコのダウンタウンにありました。北米で最大級のプロチームと言われていただけあり、私が所属した2011年頃には既に6つのゲームタイトルに取り組んでプロゲーマーを送り出しており、所属選手も30人ぐらいいました(その当時、日本にはプロゲーミングチームはほとんど存在していなかったし、認知もあまりされていませんでした)。
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