2018年も残すところ1カ月と少しになりました。わが家ではここ4年ほど、12月になるとピリピリと張りつめた空気が漂い始めます。なぜなら毎年12月には、CAPCOM U.S.A.が主催する「ストリートファイター」の世界大会「Capcom Cup(カプコンカップ)」が開催されるからです。出場するには年間を通じてポイントレース用に認定された多くの大会で成績を収め、ポイントを上げて出場権を獲得する必要があります。その一連の大会を「Capcom Pro Tour(カプコンプロツアー)」と呼ぶのですが、今日はそのカプコンプロツアーの話題を中心に、「ストリートファイター」を専門種目にしているプロ選手たちがどのようなプロ生活を送っているか、ご紹介したいと思います。
世界最強の“ストリートファイター選手”へ
現在、「ストリートファイター」(カプコン)の世界大会として、一般的に知られている大会は2つあります。それが、以前本連載にも書いた通称「EVO」こと「Evolution Championship Series」のストリートファイター部門と、今回ご紹介するカプコンカップです。EVOは毎年夏にアメリカのラスベガスで開催されています。
対してカプコンカップは毎年12月の開催で、前回まではカリフォルニア州のサンフランシスコやロサンゼルスで開かれていたのですが、今回はラスベガスの「Luxor Hotel & Casino(ルクソールホテル & カジノ)」内にある「Esports Arena Las Vegas」で開催されることになりました。Esports Arena Las Vegasは、今年ラスベガスにできたeスポーツ専用の施設です。
https://www.esportsarenavegas.com/(外部サイトに接続します)
これらの世界大会で優勝すると、世界最強の“ストリートファイター選手”として世界的に認められるようになります。「優勝できれば人生が大きく変わる」と言われるほど、選手たちにとっては非常に重要な大会です。実際、夫の〈ももち〉が14年にカプコンカップで優勝してから私たちの人生は急転したので、その気になって行動すれば大きく人生を変えるきっかけを得られると実感をもって言えます。
賞金額が大きいだけでなく、選手として認められることで活躍の場が増えるので、それほどの変化が起こるのです。ではいったいどうすれば、カプコンカップに出場することができるのか? 次はそれを説明しますね。
カプコンカップに出場できるのは、世界中でたった32人です。そのうち1枠は、前年のカプコンカップ優勝者が自動的に招待されます。他の出場者は、今年のルールではカプコンプロツアーに認定された大会に出場し、ポイントを獲得して上位にランクインする必要があります。ここで26人が選ばれます。それから、北米、中米、欧州、アジアの決勝大会で優勝した4人。残りの1枠は、カプコンカップの初日に開催される最終予選の優勝者で、ポイントに関係なく一発出場できます。実はグローバルランキングポイント、地域ランキングポイントというものもあるのですが、説明がややこしくなりすぎるので今回は割愛しますね。
ポイントが獲得できる大会は、規模によってグローバルプレミア大会(以下プレミア大会)と地域ランキング大会(以下ランキング大会)の2種類に分けられています。プレミア大会の方が獲得できるポイント数が多いのですが、規模が大きいぶん参加人数も多いので、戦いはとても激しいものとなります。ランキング大会は獲得ポイント数がプレミア大会より少なく小規模ですが、ハイレベルであることには変わりありません。
プレミア大会で優勝すれば700ポイント(P)獲得できます。2位は270P、3位200P、4位160P、5位130P、7位100P、9位70P、13位40P、17位20P、25位10P、33位1Pとなります(5位以降は同率順位が発生します)。ランキング大会はというと、1位で150P、2位70P、3位40P、4位20P、5位10P、7位1Pとなり、プレミア大会とかなり差があります。
おおよそ800ポイントを超えればカプコンカップに出場できるだろうと言われているので、「ストリートファイター」の選手たちはこのポイントを獲得するために毎月何度も海外大会に参加するのです。ちなみに、この記事を書いている時点で大会がまだ1つ残っているので、今回のカプコンカップ出場の最終ボーダーラインは未定です。
またEVOだけは特別ポイント大会となっており、EVOで優勝すると1750P、2位850P、3位450P、4位400P、5位350P、7位270P……以降、129位までポイントが与えられます。ですからEVOの優勝者はカプコンカップ出場確定、2位でもほぼほぼ出場できるぐらいのポイントが獲得できるようになっています。
カプコンプロツアーの大会が始まるのは毎年3月頃で、選手たちは11月まで世界各地の予選大会に参加します。早々にポイントが貯まれば以降の大会には出場しなくてもカプコンカップに出場できますが、プレミア大会は優勝すれば約80〜100万円の賞金が獲得できるので、ポイント数が十分でも出場する選手はいます。ランキング大会は基本的に賞金はない場合が多いです。
プロツアーには渡航資金や体力も欠かせない
今年のプレミア大会は、世界中で17回開催される予定です。内訳はアメリカ6回、カナダとイギリスが各2回、ブラジル、フランス、シンガポール、中国、台湾、香港、日本で各1回です。カプコンカップ出場を狙う「ストリートファイター」のプロ選手はプレミア大会には基本的に出場するので、皆さん確実に毎年15回程度はエントリーしています。これだけの回数プレミア大会に出るには、飛行機代やホテル代として約250万円ほど必要になります。日本人選手なら、他にアジア開催のランキング大会にも参加しますから、そうなってくると一人の選手の渡航費だけで年間300万円くらいは必要になる計算です。
しかも海外の予選大会の多くは金曜〜日曜の3日間で開催されるので、例えばアメリカ大会に参加するのであれば、日本を木曜に出発し時差の関係で木曜中に現地到着。その夜はゆっくり寝て時差ボケを調節し、翌金曜から3日間の大会を戦い抜きます。大会が終了するのは日曜の夜で、それから食事などをとると深夜になってしまうので、そのまま徹夜で月曜早朝に空港へ移動してチェックインし、飛行機の中で寝て火曜に日本着――といったスケジュールになることが多いです。
4月~10月は大会が集中する時期なので、火曜に帰国してまたすぐ木曜に次の大会へ出発なんてこともよくあり、選手は体力も必要になります。特に今年の夏は6週連続で大会が開催されるスケジュールだったので、体調管理に気を遣っているにもかかわらず、どうしようもないほどの過密スケジュールで体調を崩した選手もいました。
このように資金的にも体力的にも、大会に参加するのはなかなか大変ですから、スポンサー企業やチームからの支援はとてもありがたいのです。
毎年ルールが少しずつ変更されているので、来年は変わっているかもしれませんが、17年と18年は大体このような感じになっていました。以前はプレミア大会で優勝すればカプコンカップに出場確定というルールだったので、その頃はもう少し選手のスケジュールに余裕があったり、一度優勝すれば出場できるという夢も持てたりしたのですが、現在は体力と渡航費が必要なルールになっています。
カプコンプロツアー以外にも重要な大会は開催されており、例えばアメリカのテレビ局が主催する「E League(イーリーグ)」という高額賞金の大会があったり、日本で「RAGE(レイジ)」というチーム戦の大会が開催されたり、フランスで「RedBull Kumite(レッドブル・クミテ)」という大会が開催されたり……選手のスケジュールは過密そのものです。しかも日本にいる間は練習だけしていれば良いかというとそうではなく、テレビや雑誌の取材を受けたり、Web番組に出演したり、イベントに出演したりの仕事もこなします。さらには個人でインターネット生放送をすることも大事な選手活動になります。なので、いかに練習とそれ以外の活動を両立できるかが重要になってきます。
「ストリートファイター」のプロ選手はこうして1年を過ごし、その集大成となる大会がカプコンカップというわけですから、選手に掛かるプレッシャーやストレスは相当なものです。なので12月は、百地家もピリピリとした空気になるのです。
今年のカプコンカップは、日本時間で12月15日(土)~17日(月)の開催になるかと思われます。まだ確定したスケジュールが出ていないので、恐らくですが。15日は最終予選の模様が放送され、16日からはいよいよ本戦。