モズの甲高い声が田園に響き渡り、稲の収穫がほとんど終わって広々とした刈田は、麦わら色に輝いています。比良山(ひらさん)の頂もほんのりと色づいてきました。一雨ごとに気温が下がり、これから本格的な紅葉が始まろうとしています。
この頃、柿の実りが最盛期を迎えます。柿には甘柿と渋柿がありますが、湖西地方では、甘柿は人家の庭やその周辺に生えていて、渋柿の方は土手や農道の脇などに見られます。
甘柿は動物や鳥に狙われにくいように人気(ひとけ)のある場所に植えられたのでしょう。いろいろな種類があって見分けは難しいのですが、私が管理している農地には、「御所柿」と言われる珍しい種類もあります。味は甘くてとても芳醇です。
一方、野良で出合う渋柿は、どれも古木です。幹が太く、樹皮はごつごつしていて苔むしています。おそらく樹齢100年から200年くらいのものだろうと推察できます。今年90歳になる農家のおばあちゃんに聞くと、「この渋柿は自分が子どもの頃から幹が同じ太さだった」と言います。柿は、実はなっても体格がなかなか良くならない木だと言われますが、おばあちゃんの言葉がそれを物語っています。
一昔前、土手に渋柿が植えられたのは、干し柿として利用するためでした。甘いお菓子が手に入りにくい時代には、白く粉を吹いた天然のおやつは、最高のプレゼントだったのです。しかし、最近は、渋柿は収穫されることなく、たわわに実っていてもそのままです。晩秋になっても橙色の果実が枝にぶら下がったままですが、実が赤く熟して甘くなるといろいろな鳥たちが集まってきます。風景としては変化があってありがたいのですが、人が利用しなくなった渋柿の姿は、ちょっと寂しく感じられます。
渋柿の中には小型の実を付けるものがあります。この種類は里山に自生していたもので、生命力があるため接ぎ木の台木として利用されます。なので、大ぶりの実のなる渋柿の幹が折れたりすると台木の部分が復活して、いつの間にか野生に戻っていることがあります。野生のものは、種が大きくて渋味も強いので食用には向きません。
渋味のついでに言うと、やはり小ぶりの実でロウソクの炎のような形をした渋柿があります。これは渋さナンバー1で、これで柿渋液をつくって、防腐剤として利用します。昔は、漁師が使う網の塗料として重宝されていたので、この木が湖岸べりに植えられました。
ちなみに、私は熟し柿が好きです。渋柿が赤く色づいたら、収穫して風通しのいい場所に置いておきます。何日かするとやや透明感が出てきて柔らかくなり、表皮が光ってきます。こうなったら食べ頃。ベストタイミングに食べると、甘味の強いマンゴーにも劣らないすばらしい味覚が得られます。