毎日のように稲の刈り入れが続いています。黄金色の田んぼがぽつりぽつりと麦わら色に変わり、やがて全ての収穫が終わると、田園一面が枯れ色になります。そんな頃、アトリエのある仰木(おおぎ)地区の「光の田園」では、あちらこちらで白い煙がみられるようになります。風がない日などは谷間に煙がとどまり、まるで霧が発生しているような風景をつくりだします。この煙の正体は、人々が農地の手入れをしていることを知らせる野焼きです。今回は、魅力的な秋の風物詩、野焼きの話をします。
「野焼き」と一口に言ってもいろいろな種類があります。まずは、森を開墾して農地に適した環境をつくるために行う焼き畑。焼き畑は、山の斜面を区画して木々を伐採し、残った木々を焼き払う農法です。こうしてできた農地では、陸稲(りくとう)や野菜などがつくられます。何年か収穫したらまた、別の山の斜面を開墾します。そして、最初の開墾地が森に返ったらまた伐採して焼き畑を行うということを、長い年月のサイクルで繰り返します。ススキなどを刈り取るための茅場(かやば)に火を入れることもあります。いずれにしてもこれらの焼き畑は、日本の伝統的な野良仕事だったのですが、規模が大きく多大な労働力が必要とされるため、今ではほとんど姿を消してしまいました。
もうひとつは、里山で行われる身近な野焼きで、土手焼きや畦(あぜ)焼き、刈田焼きなどに細かく分けられます。土手焼きや畦焼きは、田畑周辺の草を刈り取った時に行います。土手や畦は、健全な場合は一年に数回、草を刈り取りますので、春の終わり、初夏、秋など、どの季節にも煙が上がっていることになります。これらは、刈り取られてすぐの青々とした草に火を付けるので、真っ白で濃厚な煙がもくもくと出ます。梅雨明けの頃なら、青空に浮かぶ積乱雲を思わせる迫力が感じられます。
11月頃に行われる晩秋の土手焼きは、畦の植物たちの勢力も弱くなっていますので、ほどよく枯れ草が交じっていて、パチパチと音を立てて炎が土手を駆け上ってゆきます。煙の色はやや薄く、周りの大気が陽炎(かげろう)のように揺れます。
秋だけに見られるのが、収穫の終わった田んぼに日を入れる刈田焼きです。燃える場所が平坦で均一なので、風下から一列に点々と火を付けていきます。すると、秋の風でしっかりと乾いたわらが、風上に向かって元気よく燃えます。田んぼそのものに火を入れるので、面積がとても広くてダイナミックです。何人もの農家の人が、一斉に刈田焼きの作業を始めると、太陽の光を遮るほどの厚い煙が集落全体を包みこむこともあります。
真っ黒に燃えたわらは、刈田に美しいコントラストをつくり上げ、香ばしい匂いと共に秋の気分を盛り上げてくれます。
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