湿度が高い季節になりました。雨でしっとりと濡れた植物は深い緑色をしていて、独特な味わいがあります。光もやわらかく感じるので、とても心が落ち着きます。
アトリエの庭の池は、ショウブをはじめとするいろいろな水草で覆われています。茂みの隙間を覗き込むように視線をはわせると、水面が光っています。カエルなどがうごめいているのでしょうか、時折小さな波が立っています。
梅雨時のそんな水面を見ていると、タガメを撮影していた頃のことを思い出します。タガメは今では絶滅危惧種になるほど珍しくなりましたが、30年以上前までは、「光の田園」でよく出会いました。休耕田などに水が溜まっていると、10匹、20匹と捕獲できることも珍しくありませんでした。
タガメは、体長6〜7センチメートルもある大きな水生昆虫です。肉食性でカエルや小魚などを捕食します。孵化してから脱皮を繰り返して大きくなるのですが、小さな幼生の時はユスリカなどを食べ、次はオタマジャクシというように、体の成長に合わせて獲物も大きくなります。
成虫は立派なトノサマガエルやイモリを捕まえたりするのですが、そのアクションはとても迫力があります。鋭い爪のある前足でタガメがカエルを抱きかかえた時、驚いたカエルが思いっきりジャンプして、タガメも一緒に跳んでいったことがありました。それでも一度捕まえた獲物を離すことはありません。それは、まるでサバンナの動物の世界、弱肉強食の世界を垣間見たようでびっくりしました。
タガメが少なくなったのは、このダイナミックな大食漢という点に原因があるようです。数十年前から光の田園のある仰木から伊香立(いかだち)にかけて田んぼの形が変わりました。圃場(ほじょう)整備事業が始まって田んぼの区画が大きくなり、曲線だった畦道(あぜみち)が直線になりました。それだけでなく、水路がコンクリートになり、水は川からポンプアップされるようになりました。こうなると雨水や溜め池に頼らなくてすむので、春から夏にかけての稲の成長期以外は水をなくしても大丈夫になりました。それまでの、田んぼの側溝にいつでも水が溜まっていた頃に比べると大きな環境の変化です。残念ながらこの変化によって、カエルや小魚など水辺の生きものが激減しました。餌がなくなっては、タガメは生きられるわけがありません。
タガメを見なくなって久しいですが、現在、里山や農地の再生を進行している「めいすいの里山」と「オーレリアンの丘」には、タガメが大好きな湿地をつくりました。きっとここにはタガメが戻ってくるに違いありません。これらの場所では、里山にすむ生きものを記録する「里山めいぼ」を作るために、生き物観察会を時々行っていますので、ぜひ参加してください。果たして、タガメとの再会の喜びをものにするのは誰でしょうか?
※生きもの観察会の詳細は「めいすいの里山」や「オーレリアンの庭」のホームページやツイッターなどでお知らせします。
「光の田園」
アトリエのある滋賀県大津市仰木地区の谷津田の愛称。美しい棚田が広がる。
「めいすいの里山」
生きものが集まる環境を取り戻すために、2017年から里山再生プロジェクトを行っている仰木地区にある谷津田。
「オーレリアンの丘」
仰木地区の光の田園をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。