私自身は、ジェルネイルというネイルアートに凝っています。普通のマニキュアは2~3日もすればはがれてしまいますが、ジェルネイルは3週間はもつほど丈夫です。
さて、このジェルネイルですが、ご存じない方のためにここで簡単にご紹介。まず水あめ状のジェルを爪に塗ります。このジェルは科学の分野では「光硬化樹脂」と呼ばれ、これだけでは固まりません。「とろっ」とした水あめ状態の光硬化樹脂に、紫外線ライトを照射することではじめて固まり、ジェルネイルが完成するのです。
ジェルネイルと同じ技術は身近なところでは歯科医療に利用されています。歯を削ったあとを白い樹脂でふさぎ、光を当てて固めるという治療と言えば、経験のある方もいらっしゃると思います。また、飲料の缶やペットボトルの印刷の乾燥にもこの技術が使用されています。光硬化樹脂は、光を当てることによって短時間で状態が変化するので、接着・硬化・乾燥に利用されるのです。もともと印刷やコーティングに利用されていた技術ですから、理系の人に「光硬化樹脂を使ったネイルがはやっている」という話をすると逆に驚かれるくらいです。
話を戻して、少しだけ踏みこんだ化学の話をします。このジェルネイルには「重合反応」という化学変化が利用されています。爪に塗る水あめ状のジェルは「単量体」という小さな分子です。この「単量体」同士をつなげる反応が「重合反応」、その結果「重合体」ができます。「単量体」の一つ一つをビーズに例えるならば、ビーズのネックレスは「重合体」です。そして、ビーズ同士をつなげてネックレスを作ることが「重合反応」となります。
「重合反応」のためには「重合、開始せよ!」という何らかの合図が必要です。ジェルネイルの場合は、紫外線の照射が重合反応開始の合図になります。重合開始の合図としては、ほかに「熱」などもありますが、「光硬化樹脂」と呼ばれるだけあり、重合開始の合図は光です。
しかし、ここで「光が合図?紫外線って光と関係しているんですか…」という疑問が頭に浮かぶかと思います。それに対しては、「紫外線は人体の目では確認できない、でもれっきとした光」というのが答えです。紫外線のように波長が短く、目に見えない光はエネルギーが大きいので、そのエネルギーで「重合反応」が開始されるのです。このようにして水あめ状だった物質が爪の上で硬化してジェルネイルになるのです。
また、光硬化樹脂は利用範囲の広い素材です。ですから「どのくらいの時間、光を当てればよいか」「どのくらいの硬さにするか」などは利用例に合わせて、技術者の不断の努力のもとで研究、開発されています。
その結果、光硬化樹脂は驚くばかりのスピードで技術開発が進んでいます。それはジェルネイルに関しても例外ではありません。ネイル専門雑誌を見る度にジェルネイルの材料が進化し、次から次へと新しい材料が登場してくるのがわかります。
現在ではジェルネイルの家庭用キットも市販されており、光硬化樹脂はさらに身近な存在になりました。ドラッグストアなどでジェルネイルキットを購入する「きれいなお姉さん」を見かけると、「この女性は、おうちで光硬化樹脂を重合反応させるのね」と想像し、少し楽しい気分になります。
このように工業用で活躍している科学技術が、美容の場面で多くの人に利用されている。サイエンスが意外と身近にあふれていることに気づくヒントになるのではないでしょうか。