そもそも腐敗とはなんでしょう? 簡単に言えば「食品に微生物が繁殖する有害な変化」。もともと食品にすみついていた微生物が「快適環境」の中でどんどん家族を増やしていく現象です。微生物はあたたかい温度が大好きで、また生きていく上で水分が欠かせません。要するに、微生物は「生き物」であり、人間とも共通点が多いのです。
しかし、微生物が「すみか」である食品の中で一族繁栄(繁殖)してしまうと、食べ物が腐るという、人間にとっては困った事態になります。このため、人間は古来より微生物と闘ってきました。では、微生物との闘い、つまり「食品を腐敗させないための人間の知恵」を科学してみましょう。
食品を保存するための工夫は次の4通りが挙げられます。
(1)食品を乾燥させる
生きていくために水分が必要な微生物にとって、水分が多く含まれる食品は住み心地抜群の環境。したがって、水分を抜いて乾燥させることで微生物の繁殖を抑えることができ、生の状態よりも保存性を高めます。例えば、魚の干物がそうですね。せんべいも、米を焼いて乾かして作っているので、長い期間保つのです。ほかにも、各種ドライフルーツ、インスタントラーメンなど、乾燥させて長期間保存に耐える食品はたくさんあります。
(2)食品を塩漬け、砂糖漬けにする
塩や砂糖そのものには、防腐効果はありません。でも、高い濃度の塩や砂糖が食品に含まれていると、浸透圧の効果で細胞内の水分が細胞外に排出されます。きゅうりに塩をまぶすとしんなりする、と言えば理解しやすいでしょうか。食品内の水分を少なくして、微生物の発生を抑えるという意味では「食品を乾燥させる」のとメカニズムは一緒になります。ちなみに、ようかんは、全体の重量の40~70%の砂糖が含まれています。つまり、1本のうち半分は砂糖ということ。そのために日持ちするので、昔からお土産の定番として喜ばれてきたのでしょう。
また、「健康のため」として薄い塩味の梅干し、塩漬け、砂糖控えめのジャムなどがありますが、これらは当然ながら保存性は悪くなり、賞味期限も短くなります。ですから、市販のものは品質保存のために、他の保存料などを入れることになります。また、砂糖を減らした自家製ジャムを作る時は、保存期間が長くないので気をつけてください。
(3)食品を酢漬けにする
酢は、塩や砂糖と異なり、酢自体に防腐効果があります。微生物にとって居心地のよい環境は、pH(ペーハー)が7付近、つまり中性です。しかし酢は、pHが3程度で酸性です。このpHの低い環境で微生物の繁殖を止めることができるのです。ピクルスがまさにこの酢の防腐効果を利用した保存食品ですね。ちなみに、コンビニなどで売られているご飯には「クエン酸」が含まれていることがありますが、このクエン酸も酢と同じ効果があります。酸っぱいもので保存性を高める、と聞けば、おにぎりに入れた梅干しを連想するでしょう。まさに、これも「酸」の防腐パワーです。
(4)食品を煙で燻製(くんせい)にする
ハムやソーセージがこれですね。おがくずや木を燃やして、その煙で食品をいぶすのですが、この煙には殺菌効果があるアルデヒド系化合物などの成分が含まれています。この煙が微生物などを退治し大活躍します。また、アルデヒド類は肉などの表面のたんぱく質と反応して固い膜を作ります。この膜が外部から雑菌が入るのを防ぎ、食品内部の微生物が繁殖しづらい環境を作る役割を果たしています。
これらはすべて科学的根拠にも裏づけられている食品保存の工夫です。また同時に「いろいろなおいしいものを食べたい!」という私たちの欲求にもかなっています。生とはまた違った多様な味を楽しめるのですから。食いしん坊としては、先人たちの知恵にひたすら感謝です。
浸透圧
濃度の異なる溶液が混ざると濃度を一定にしようとする作用が起きる。その結果、低濃度水溶液から高濃度水溶液へ水分子が移動する。
pH(ペーハー)
溶液の酸性度・アルカリ度を示す指数。水素イオン濃度。0~14の値をとり、7が中性で、それ以上だとアルカリ性、それ以下だと酸性。ピーエッチともいう。