まず手始めに、宝石とは切っても切れない存在である「結晶」のお話をします。固体物質の多くは原子などが規則正しく並ぶ結晶です。その結晶は、世の中のあらゆるところにあふれています。例えば、金属も結晶ですし、台所にある食塩も結晶、そして宝石も結晶です。ですから、食塩も宝石も同じ結晶なのです。でも、なぜ宝石は貴重であるだけでなく、美しく見えるのでしょうか?
結晶には多くの結晶の粒から成る「多結晶体」と、ひとかたまり全部が一つの結晶である「単結晶」があります。食塩などの多結晶体では、粒と粒の間にある不純物などによって光が散乱するため、私たちの目には不透明に映ります。一方、単結晶である宝石は、たった一つの結晶からできています。ですから、光が散乱することなく真っすぐに進むため、結晶が透明に見えるのです。このように透明な単結晶を得るのが非常に難しいということが、宝石が貴重である理由でもあります。
なかでもダイヤモンドは宝石の王様。ダイヤモンドが重宝されている理由は、単結晶である宝石の中でも光を操る性質が特別であるためです。では、この光を操る性質について、「屈折率」「分散率」「硬度」に着目して科学してみましょう。
(1)ダイヤモンドの「屈折率」
材質の異なる物質同士が接した面で、光の進む方向が曲がることを屈折と言います。分かりやすい例として、水中にモノがある状態を思い浮かべてみてください。水面を境にモノの位置がずれて見えますよね? あれが屈折です。ダイヤモンドはこの屈折率が高いために、広い角度からの光、つまり多くの光をダイヤモンドの結晶内部に取り込むことができます。そして、その光が内部で反射して外部に放たれるためにダイヤモンドはキラキラと輝いているのです。
(2)ダイヤモンドの「分散率」
また、物質の境目で異なる方向に光が曲がる現象を「光の分散」と言います。これは光の色によって屈折率が異なるために起こります。もともと、私たちの目に映る光は、さまざまな色の光が「足し算」されて「白」に見えています。それが物質を通過することで、何色にも分かれるのです。身近な例として、虹が挙げられます。太陽の光が雨粒を通過することで光が分散されて、七色の虹になります。この雨粒と同様に光の分散率が高いのがダイヤモンドで、光を七色に分ける性質を持っています。このように光が分散することによって、ダイヤモンドは輝いて見えるのです。
(3)ダイヤモンドの「硬度」
そして、ダイヤモンドの硬度も宝石の王様であるゆえん。ダイヤモンドに傷をつけることができる唯一の物質はダイヤモンドです。その無比の硬度は結晶の構造によるものです。ダイヤモンドの結合は「共有結合」といって、一つひとつの原子(分子)の結合が他の結晶とは異なり、非常に強くなっています。この共有結合による硬さのおかげで、滑らかな表面を作ることを可能にし、鏡のような表面反射を作り出すことができるのです。これがダイヤモンドの輝きとなっています。
ちなみに余談ですが、ダイヤモンドの成分は炭素です。同じ炭素原子の共有結合でも、結合の配列の違いで全く別物になります。例えば、鉛筆の芯に使われている黒鉛も炭素の共有結合です。他にも、サッカーボール形をしたフラーレン、チューブ形をしたカーボンナノチューブなど、炭素の共有結合はその配列の違いによって多様な形を見せる面白い物質と言えます。
このようにダイヤモンドの輝きが特別に美しい理由には、「屈折率」「分散率」「硬度」という光を操る性質がかかわっているのです。科学の視点からダイヤモンドを見てみると、今までよりもいっそう輝きが増して見えませんか?