電子レンジは「電磁波」を利用した製品です。電磁波と聞くと、なんだか危ないビームが出てそうで、身体に悪そうなイメージがありませんか? しかし、電磁波とひとくちに言っても、その波の長さ(波長)によって性質も呼び名も違います。
たとえば、私たちが普段目にしている光は可視光線といいますが、これも電磁波の一種です。身のまわりの物が色づいて見えるのは可視光線のおかげで、このときの波長はだいたい1万分の5ミリです。これよりも波長が短くなると私たちの目には見えなくなり、紫外線と呼ばれる電磁波になります。紫外線は可視光線よりもエネルギーが大きいので、殺菌に使われたりしています。また、日焼けをしてしまうのも、紫外線のエネルギーが大きいせいです。逆に、可視光線よりも波長が長くなると赤外線という電磁波になり、エネルギーも小さくなります。
電子レンジは、マイクロ波という波長10センチ程度の電磁波を利用しています。これは可視光線に比べてもかなり波長が長く、エネルギーも小さいのです。「あっ」という間に食品を温める機械なので、エネルギーが大きい電磁波を利用しているのか、と思いますよね? では、このエネルギーの小さいマイクロ波が、なぜ食品を温めることができるのかを探っていきましょう。
電子レンジに使われるマイクロ波の振動数(電磁波が1秒間に振動する数)は2450メガヘルツ。1メガヘルツは100万ヘルツなので24億5000万ヘルツということになります。この電磁波は、特に水によく吸収され、水分子を1秒間に24億5000万回振動させます。1秒間に24億5000万回……? 想像がつかない世界ですよね。それだけ振動させられるのですから、大きな摩擦熱が発生します。その摩擦熱を利用して発熱しているのが電子レンジなのです。
では、オーブンや鍋で食品を温める場合とは何が違うのでしょうか? オーブンは、ヒーターがまず庫内の空気を温めます。その熱くなった空気を通じて熱が食品に伝わり、外側から食品を加熱します。鍋で食品を煮る場合にも、まずは鍋が温まり、中にある水を温めます。そして鍋の中のお湯の熱が食品に伝わり、食品を外側から加熱します。つまり、熱源と食品の間にある「空気」や「水」が「熱の運び屋」になっているというわけです。
それに対し、電子レンジのマイクロ波は食品の中の水分にダイレクトに働きかけるため、食品を「直接」温め、スピード加熱ができるというわけです。オーブンのように空気が熱の運び屋ではないため、空気にエネルギーを奪われるというムダもありません。
しかし、電子レンジにも弱点があります。食品中の水分を振動させた摩擦熱で食品を温めるので、食品中に水分がないものを温めることはできません。たとえば、冷凍庫から出したばかりのまったく溶けていない氷は、電子レンジに入れて加熱ボタンを押しても溶けることがありません。というのも、氷はもともとは水でできていますが、固体状態のときは電子レンジの発するマイクロ波を吸収しないからです。
また、もう一つの弱点は、食品をスピーディーに加熱できる半面、水分の温度が上昇し、どんどん沸騰して水分が少なくなり、食品の組織を破壊してしまうことです。パンを電子レンジで温めた直後はふわふわですが、加熱によって水分を失っているため、すぐにぱさぱさになってしまいます。ですから、オーブンの原理と同じく「熱の運び屋」を利用したトースターでパンを温める方がいいのです。
最近は、電子レンジ用の調理器具が増えています。電磁波の波長やエネルギーについて考えてみると、調理器具がいつもと違って見えてきませんか?