ここ数年、「LGBT」や「SOGI」といった性的な多様性を表現する言葉を日常的に目にするようになってきた。しかし、私たちはこれらの言葉の意味をきちんと説明できるだろうか? 「今さら訊けない性的多様性の基本」について、加藤秀一・明治学院大学社会学部教授にうかがった。
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Q1:数年前から、SOGIという言葉をよく目にするようになりました。SOGIとは何のことでしょうか?
SOGIとは、Sexual Orientation(セクシュアル・オリエンテーション=性的指向)とGender Identity(ジェンダー・アイデンティティ=性同一性、性自認)という二つの語句の頭文字を組み合わせた言葉で、「ソジ」と発音されることが多いようです。
Q2:SOGIとLGBTの違いは何でしょうか? 使われ方にどのような区別があるのでしょうか。
私たちの社会では、性別には男女の二種類しかなく、個々人の性別は生まれもった肉体のあり方(生殖機能)によってそのどちらか一方に決まっており、それは一生変わらないという考えが「常識」になっています。その常識から何らかの意味で逸脱しているとみなされる人々を「性的少数者」ないしは「性的マイノリティ(セクシュアル・マイノリティ)」と呼びますが、これはマジョリティ“ではなく”マイノリティ、「普通」“ではなく”「逸脱」しているというとらえ方ですから、いわば消極的な規定と言えます。
それに対してLGBTとは、「レズビアン(Lesbian)」、「ゲイ(Gay)」、「バイセクシュアル(Bisexual)」、「トランスジェンダー(Transgender)」の頭文字を合わせたもので、「●●“ではない”」という消極的な規定ではなく、「●●“である”」という、積極的で、より具体的な規定になっている点に意義があると思います。それは当事者たちが自分のアイデンティティを表現するためにも有用なカテゴリーなのです。
ただ問題もあって、大きなポイントの一つは、性的マイノリティに含まれるあり方はLGBTの4種類だけではないということです。明確なジェンダー・アイデンティティをもたない「Xジェンダー」や「ノンバイナリー」、そもそもセクシュアルな感情・欲望を抱かない「Aセクシュアル(アセクシュアル)」をはじめとして、LGBTの4文字では表せないジェンダーやセクシュアリティのかたちは数多くあります。そこを補って、LGBTQ+(Qは「クィア(Queer)」または「クエスチョニング(Questioning)」の略とされます)というように文字を足していくことも行われていますが、そういう工夫をしても全てを包摂できるわけではないし、やはりLGBTだけが別格扱いされているように受け取れなくもないので、問題は残ります。
もう一つは、普遍性という問題です。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーというカテゴリーとそれに結びついたアイデンティティは、近代の西洋社会から生まれたもので、歴史的に大きな意義をもちます。しかし、だからといって必ずしも普遍的なものではなく、全ての人が納得して受け入れられるカテゴリーではありません。例えばLとGというカテゴリーの下敷きになっている同性愛/異性愛という分類法は、ヨーロッパでせいぜい19世紀後半になって確立されたもので、人間に関する見方として唯一普遍のものだとは言えません。トランスジェンダーも同様です。
さらにつけ加えるなら、自分は確かにマイノリティだが、こうした出来合いのカテゴリーを当てはめられたくないという人もいるでしょう(この点については「ジェンダー」の記事〈性知識イミダス:「ジェンダー」について知ろう(後編)〉で少し詳しく述べておきました)。
こうした問題点をふまえ、人間そのものを「分類」して性的マイノリティの「種類」を書き並べるのではなく、マジョリティも含めてあらゆる人がもっている「属性」を表すために用いられるのが、SOGIという表現です。それによって、同性愛者であろうが異性愛者であろうが、またトランスジェンダーであろうがシスジェンダー(出生時に身体的特徴をもとに割り当てられた性と、ジェンダー・アイデンティティが一致している人のこと)であろうが、特定の属性によって差別されてはならないということを明確に言えるようになります。それはまた、ジェンダーやセクシュアリティの多様性を発見するための「視点」と言ってもいいかもしれません。SOGIという抽象度の高い、したがって普遍性の高い視点をもつことで、自分は「普通」の女性だ、男性だと思っている人たちも、その自分のあり方もまた多様なものの中の一つのタイプにすぎないと認識することができます。