不妊治療は、今や子どもを産むための選択肢として一般化しつつある。2020年に生まれた出生児の約14人に1人が生殖補助医療によって誕生しており、2022年4月からは費用が高額な体外受精等にも健康保険が適用された。最近は気軽に試せる妊活ツールの活用も進んでいるという。そんな中で、不妊治療を検討するときにどのようなことがポイントになるのか、基礎的な知識も含め、産婦人科・生殖医療専門医で東京・高田馬場「桜の芽クリニック」院長の西弥生医師にうかがった。
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晩婚化は不妊症にどのような影響を与えているのか
――日本生殖医学会によると、不妊症とは「なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がない状態」ということですね。日本で不妊症は増えているのでしょうか。
2021年の調査(国立社会保障・人口問題研究所「社会保障・人口問題基本調査」)で、39.2%(約2.6組に1組)の夫婦が不妊を心配したことがあり、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%(約4.4組に1組)という結果が出ています。2002年の同調査では、前者が26.1%、後者が12.7%でした。不妊症に悩んだり治療を受けたりしている人は、この20年ぐらいでかなり増えていると言えるでしょう。
不妊症が増えている要因として、晩婚化と、それに伴い第一子を産む年齢が上がっていることがあると言われています。1995年の女性の平均初婚年齢は26.3歳、第一子出生時の母親の平均年齢は27.5歳でしたが、2016年には、それぞれ29.4歳、30.7歳に上昇しています。たとえ見た目が若く健康であっても、妊孕力(にんようりょく。妊孕性とも言う。妊娠する、または妊娠を引き起こす力)は年齢が上がるとともに衰えていきます。たとえば女性が自然妊娠できる確率が最も高いのは20代前半で、その後ゆるやかに下降していき、30代後半、40代前半、45歳以降とどんどん低下していきます。
不妊治療は妊孕力の低下に対して万能ではなく、年齢が上がるほど、不妊治療を受けても妊娠・出産に至らないことも増えていきます。たとえば、体外受精の妊娠率は年齢によって変化し、日本産科婦人科学会の調査(2021年実施)によると、30歳ではだいたい50%ぐらい期待できますが、32歳を境に徐々に低下していき、35歳で約45%、それ以降さらに急激に下がり、40歳で約30%、42歳で約21%、45歳で9.4%、47歳で5%未満となっています。不妊治療の保険適用の要件として、治療開始時の女性の年齢が43歳未満となっているのは、こうしたことが背景にあります。
とはいえ、何がなんでも若いときに産むのがよいというわけではありません。いつ出産するかは個々人の人生設計に関わってきますし、職場や家庭の状況しだいでは、若い年代で子どもを持つことが難しい場合もあるでしょう。ただ、いざ妊娠を考えたときにはすでに不妊治療の効果が見込めない年齢になっていた、という例がないわけではありません。そういった事態を避けるためにも、不妊治療でできることとできないことは何か、基本的な知識を持っておくのは大切だと思います。