外性器に触れてみよう
「腟は無理」と言う受診者でも、その理由にはだいぶ幅があります。
単にプライベートゾーンとして「隠すべき場所」だと教わってきたから、という人がいる一方で、どうしてもセックスができなくて診察に来ている人もいます。そういう人の「なぜ腟は無理なのか」を掘り下げていくと、親との関係性が悪く月経や性的な成長を汚ないものだと刷り込まれていたり、性暴力を受けた過去などがあって、外性器を汚いもの、恥ずかしいものと封印している深刻なケースが多々あります。そういう場合には、絶対に外性器を見て、触らなければならない、とまでは言いません。
ただ、自分のからだがどうなっているのかも知らないのに、いきなりセックスしようとしてなんとかできるわけがないとも思います。私はセックス・セラピストとしてセックスに関する相談を受ける仕事もしていますが、セックス経験がない同士が30代後半でいきなり合体しようとして、女性の側は何をされているか分からないし、男性も何をしていいか分からなくて、いつまでも挿入できないというカップルも相談に来ます。そこで外性器の絵を描いて、「会陰(えいん)のところは比較的鈍感だから、後ろの方、肛門側から前へと触っていって、腟の入口を見つけてくださいね。尿道口から腟前庭へと、前側の鋭敏な方から触っていくと女性はザワザワした感じになって『もうやめて』となってしまいます。お尻の穴のちょっと手前から指を這わせていって、中にストっと入るところが腟口です」と説明します。これは、セックスの初心者全員に知っておいてほしいことですし、女性が自分で触るときも同じです。一度で挿入できるとは限りませんが、何度かこの方法を試してみて、もしそれでもどうしても痛い、入れられないという場合は、骨盤痛挿入障害の可能性がありますから、婦人科を受診しましょう。
それから、どこをどう触れば気持ちいいのかを自分で知っていることは、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ。性と生殖に関する健康と権利)、そして「セクシュアル・プレジャー」(性の喜び)にとって、とても大事なことです。
女性のマスターベーション(オナニー、セルフプレジャー、ソロセックス、自慰)は、これまで男性に比べ、あまり大っぴらに語られてきませんでした。「女性がマスターベーションするなんてはしたないし、すべきではない」などと考えている人は、男性だけではなく女性にもいます。ですが、もちろん、女性がマスターベーションをできないわけでも、してはいけないわけでもありません。それなのに女性のマスターベーションに対するマイナスイメージを捨てられないのだとしたら、それはセックスやオーガズムの主導権は男性にあると思いたい「男性目線のジェンダー意識」が世間に広く浸透していて、女性側もそれを受け入れていることの現れだと思います。
こうした社会では残念ながら、自分のクリトリスのことや気持ちよくなれる触り方を知っていて、自分でイケるという性的に自立・成熟した女性は、男性からあまり歓迎されないということが起こりえます。例えば交際している女性のことを「俺のモノ」などと言うような男性にとっては、性的に自立した女性では所有した気になれず、うっとうしいかもしれません。
自分のからだを知っている成熟した大人の女性こそがセックスを本当に楽しむことができるのではないかと思います。「自分はこうされると気持ちいい」ということも言えず、ただただ相手にされるがままというのでは、痛いことや嫌なことに対して「それはやめて」と言うことすらできないでしょう。これは、互いの対等な関係性において性的同意以前の問題ではないかと思います。
自分のからだを尊重する、尊重させること
自分のからだは自分のものだという感覚を女性が持つことは、セックスのときだけではなく、たとえば産科・婦人科で納得のいく処置、からだを尊重される対応を受けられるかどうかにも関わってきます。
たとえば日本では産科・婦人科で内診を受けるとき内診台に上がり、腰のところにカーテンを引いて、下半身だけを医師に見せます。でも、世界の他の国ではカーテンなしで内診をしているところがほとんどで、その理由は、受診者が見えないところで自分のからだに加害されるかもしれない可能性があるからです。
私もカーテンを開けて内診しています。25年ぐらい前、ある受診者に「何をされるのか見たいから、カーテン開けていいですか?」と言われたことがきっかけでした。当時はカーテンを引いて内診するのが当たり前だと思っていたので、ちょっと動揺しましたが、やってみたら逆に診察しやすいんですよね。受診者の緊張度合いも分かりますし、内診が苦手な人には「心の準備ができたら内診台を上げますね」「足を開くけど、どのくらいまで大丈夫か教えてね」などのコミュニケーションも取りやすいんです。
以前、カーテンを開けて内診したら顔を手で覆った受診者がいたのですが、診察する側は別にエッチなことをしているわけではありません。医師が性器を見るのは、口や鼻の調子が悪いときに、口を開けてもらったり、鼻の穴を広げたりするのと同じなのですから、診察するときにカーテンを引く理由は医師の側にはないと私は思います。もちろん、カーテンを閉めての診察を受け慣れている受診者に強制することはできないので、「閉めてほしい」と言われれば閉めますが。