精子は全長約0.06ミリメートルのおたまじゃくしのような形をしており、肉眼で見ることはできない。精子は精細管で毎日5000万~1億個生産され、精巣上体から精管を取り巻く平滑筋の収縮によって精管の中を約2週間かけて移動し、受精に必要な運動能力などを備えていく。精細管から尿道口までの「精路(精子の輸送路)」はトータル7~8メートルに及ぶ。なお、精巣から出た後、射精せずに体内に長くとどまっている精子は酸化ストレスを受けて自然死し、吸収されていく。
「正常な精子をつくるためには精巣の温度が体温より1~2℃低いことが必要で、陰嚢を温めすぎると精子がつくられにくくなってしまいます。長時間の熱い湯船やサウナ、熱を発するノートパソコンを膝上に置いての作業を控える他、下半身を締め付けるようなきつい下着を身に着けたりすることも、陰嚢の温度を上げるので避けた方が良いでしょう。また、電磁波が精子に悪影響を与えるという研究結果もありますので、スマホなどのIT機器はできるだけ下半身から離すのが安心です」(小堀先生)
〈射精に至る3つのステップ〉
性的興奮を感じ取った脳の指令が脊髄の射精中枢に伝わると、精巣上体で規則的な収縮が繰り返され、その律動によって精子は精路内を押し出されて精管膨大部(精管の出口付近で、射精管につながる部分)に移動、射精直前まで待機し、最終的にペニスの先から勢いよく排出される。
射精は以下の3つの段階を経て行われる。
●第1段階
性的興奮などにより脳が脊髄の勃起中枢に指令を伝え、ペニスの海綿体に血液が集中して流れ込み、勃起する。さらに性的な刺激が加わると、精管膨大部にためられていた精子が尿道前立腺部(尿道と前立腺がつながる部分)に移動する。このとき、精嚢液や前立腺液が分泌され、精子はこれらの分泌液と混じって白くとろっとした精液となる(尿道前立腺部に精液が排出されることを「エミッション」という)。また、前立腺よりもペニスに近いところにあるカウパー腺(尿道球腺)からは、射精前からカウパー腺液が分泌されており、いわゆる「先走り」(ガマン汁)として尿道口から滲出する。
「前立腺肥大症の治療薬を服用していると、第一段階のエミッションが起こらないという副作用があります。僕自身もこの薬を飲んで実験してみましたが、精液が出てこないので、ビュッビュッと射精する感覚はあってもスカスカした空振り感で、非常に気持ち悪いものでした」(小堀先生)
●第2段階
膀胱頸部にある内尿道括約筋が射精時まで強く締まり、尿が尿道に排出されなくなる。これにより、精液も膀胱側に逆流せずペニスの先まで送られることが可能になる。