でも、ここ数年、若い世代のインフルエンサーが生理をオープンに語るなど、『生理をタブー視しなくていい』という感覚を持つ人たちが男女ともに増えていると感じています」
そうした変化を象徴するものとして、生理日の情報をパートナーと共有するサービスがある。ルナルナではこのサービスを有料のプレミアムコースで提供しているが、当初は排卵日予測など妊活を目的とするカップルによる使用を想定したという。だが、蓋を開けてみると、サービス利用者の約半数が避妊目的で使用していた。また、避妊や妊活と無関係に、月経に伴うパートナーの心身の体調の変化を理解したいという男性側のニーズも存在することが明らかになった。
「私たちは『ルナルナ男子』と呼んでいますが、パートナーの生理周期を知っていれば、不調な時期にケアできると考える男性が、特に若い世代には珍しくありません。この世代は女性のほうも、自分の体調の一環として生理日をパートナーに伝えることに抵抗がないですね。一方、年代が上がるにつれて、『生理日を男性に管理させるなんて恥を知りなさい』という反応も目立つようになるので、このあたりは世代によるギャップが大きいように思います」
フェムテックによって生まれる気づき
女性の健康に対するタブー意識が薄まってきていることは、フェムテックにとっては追い風と言えるだろう。「fermata」は、日本におけるフェムテック市場開拓のためにリアル・オンライン両軸でイベントを開催し、女性が抱えるからだの悩みについて話し合う機会を設けているが、「創業前初めてのイベントを東京で開催したとき、用意した80枚のチケットはすぐに売り切れてしまい、結果的に100名ほどの方に参加していただきました」と同じく「fermata」共同創業者の中村寛子さんは言う。
「イベントを開催して改めて思うのは、女性の健康についての悩みは本当に幅広いということです。たとえば、世代が違えば抱えている悩みも異なります。20代の若い女性たちは、仕事でがんばりたいけれど子どももほしいならどういう選択肢があるのかということが気になるし、30代、40代になると今度は不妊の悩みが増えていき、さらに上の世代は更年期の不調で苦しんでいたりします。また、一口に月経の悩みといっても、月経痛をはじめ、経血の多さ、周期の不規則さ、無月経など非常に個人差があるわけです。そんなふうに細分化されたものである一方、他の人の悩みを聞くことで、『自分は気づいていなかったけれど、それは悩むことだったんだ』という気づきを得る場面も見てきました。LINEなどを使った参加者限定のコミュニティーでは、皆さん、新しいフェムテック情報に前のめりに興味を持ってくださいますし、パートナーとの性関係や尿もれといった、なかなか人前では話しにくい話題についても、『初めて言えた』という方がいらっしゃいます。イベントという場を通して、課題がどんどん突き詰められていくという感じがありますね」
イベントでは、普段はなかなか目にすることが少ないフェムテックの商品を実際に手に取ることもできる。4月にオープンした同社のオンラインショップでも、韓国のヘルスケアブランドが開発したオーガニックコットンの吸水性サニタリーショーツ、スマートフォンと無線接続できる骨盤底筋トレーニングデバイス、シンプルでシックな色使いの充電式セックストイなどが並び、今後は医療機器なども販売していく予定だ。
「私たちのショップで取り扱っている吸水性サニタリーショーツにはあえてナチュラルな色の商品があるんです。このショーツは特殊な構造で、生理用品をつけなくてもタンポン2本分ぐらいの経血を吸収できるのですが、私だったら血の色が目立たない黒や濃い色を選びます。でも、『自分の経血量がどれくらいなのか、どんな色をしているのか、ということをきちんとチェックして、自分のからだのことを知ろうと思う人に勧めたい』というポリシーがあって、メーカーはあえてナチュラルな色のショーツをつくったのだそうです。『なるほどな』と思いましたし、実際、このショーツを購入されたお客様からも『これまで生理期間中にどれだけナプキンを消費するかなんて考えたこともなかったけれど、ショーツを使うことで経血の量がわかるようになったので、必要な枚数を計算しています』という感想をいただいています」(中村さん)
生理用品といえばナプキンとタンポンのほとんど二択しかなかったなか、こうしたサニタリーショーツを使い始めた女性たちからは、ムレやかゆみが減り、生理用品の交換から解放されたことなどで、『次の生理が楽しみになった』という声も上がっているという。フェムテック商品の登場が、ネガティブになりがちな生理への向き合い方に変化を起こしつつあるということだろう。
「ルナルナ」
2000年から開始した、女性の体調管理のためのデジタルサービス。現在はスマートフォン向けアプリを中心に提供されている。直近の月経開始日などを入力することで、排卵日や月経周期、妊娠しやすい(しにくい)時期などを予測することができる。無料から有料まで、需要にあわせてさまざまなプランがある。また、基礎体温を記録できる「ルナルナ 体温ノート」、妊娠・育児中の女性向けの「ルナルナ ベビー」といったアプリもある。