高齢出産が増えたことで、分娩途中で血圧が上がったり、肝機能が悪くなったりして、急遽帝王切開に切り替えるというケースも増えてきていますし、産道が広がらず赤ちゃんが出てくるまでに時間がかかってしまうとき(初産婦で30時間以上、経産婦で15時間以上)も、分娩の途中で帝王切開に切り替えたり、吸引カップで赤ちゃんの頭を引っ張る吸引分娩になったりということが起こり得ます。初産の場合はもちろん、経産婦さんでも、前回安産だったから今回も大丈夫とは限りません。赤ちゃんがちゃんと降りてこられるかどうかはそのときになるまでわからないのです。
ちなみに、帝王切開だけではなく、吸引分娩も増えています。一方、金属の器具(鉗子〈かんし〉)で赤ちゃんの頭を挟んで引き出す鉗子分娩は、赤ちゃんを傷つけない高度な技術が必要なこともあり、あまり行われなくなってきているようです。
10代の出産というだけでハイリスク
一方、お産は若ければいいというものでもありません。10代の出産では胎児がおなかの中で育たない低体重出生(生まれたときの赤ちゃんの体重が2500グラム未満)、胎児発育遅延などのリスクが高く、分娩途中で赤ちゃんが産道から降りてこなくなる分娩停止の割合も高いことがわかっています。さらに産後の出血のリスクや、早産のリスクも高いので、10代というだけでハイリスクというのが産科の認識です。これは、子宮がまだ成熟していないということと、10代ではまだ体脂肪率が低いので胎児が低栄養になりやすい、また多くのケースで望んだ妊娠ではないため妊娠中の栄養管理や母体のケアがあまり意識されていないということも関係していると思われます。
無痛分娩の是非について
無痛分娩への関心は高いのですが、日本で無痛分娩ができる施設は全体の4〜5割程度しかありません。理由のひとつには、妊娠中は麻酔を打つ場所である脊髄が圧迫されて変形していたりすることもあるため麻酔を打つのがけっこう難しいということがあります。ただ、この5〜10年で技術も上がり、学会で無痛分娩の指標も定められているので、事故は以前に比べればかなり少なくなっているはずで、今後はさらに無痛分娩を行う施設が広がると予想されます。
特に高齢出産の場合、さまざまなリスクを下げるという点で無痛分娩はひとつの選択肢でしょう。まず、麻酔の効果で産道が少し広がりやすくなるということが挙げられます。陣痛の痛みでお母さんの呼吸が整えられないと赤ちゃんの心拍にも影響しますが、無痛分娩では医療者の指示通りに呼吸したりいきんだりしやすいというのもメリットです。また、もともと血圧が高いと痛みでさらに血圧が上がりますから、高血圧の人にはより安全なお産になるでしょう。
ただし、無痛分娩にもデメリットがあります。子宮が収縮する力が麻酔によって弱まるので、陣痛促進剤が必要になる事が多く、吸引分娩になる確率が少し上がる他、後陣痛(こうじんつう。胎盤が出た後、子宮が収縮するときの痛み)の痛みを強く感じてしまう人も多いようです。単に「出産で痛いのが嫌だから」というのではなく、メリットやデメリットも踏まえ、かかりつけ医とよく相談しましょう。
いわゆる「自然なお産」が勧められないケース
今の日本では、無痛分娩を選ぶという人と、助産院や自宅出産などのいわゆる「自然なお産」を望む人の両極端に分かれているように感じます。地域によっては産科自体が少なく助産院しか選択肢がないというところもありますし、助産院や自宅での出産を否定するわけではありませんが、もともとリスクが高い状態の妊婦さんは慎重に考えてほしいというのが私の考えです。基本的に初産婦、特に高齢出産の場合、さらにリスクを高める選択になりがちだからです。
分娩途中に緊急事態が起こったとき、助産師は帝王切開などの手術ができません。そこで病院に搬送することになりますが、元々産科が少ない地域では受け入れられるところがすぐにみつからない可能性もあります。助産院と病院の連携態勢や、緊急時でもすぐ病院に搬送できる立地かどうかということも、十分に考慮してください。
助産院や自宅出産以外でも、助産師が中心になって分娩をしている病院や、クリニックの中に助産院を置くスタイルも最近、増えてきています。こうしたところでは、妊婦さんのバースプランやリクエストを丁寧に聞いて、何かあれば医師が待機しているという態勢を取っていますから、「アットホームで自然なお産」がしたい人は選択肢のひとつとして考えてみてもいいでしょう。
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