男性の精子と女性の卵子との出会いから始まる妊娠、そして女性の胎内で育まれた命が誕生する出産。生殖は生き物としての自然な営みのはずだが、今の日本では少子化というかたちで、そこに多くの困難が伴うことが示されている。まずは、現代日本の妊娠・出産事情と、押さえておきたいポイントを、生殖医療専門医で東京・高田馬場「桜の芽クリニック」院長の西弥生先生にうかがった。
自然妊娠は難しくなっている
以前と比べ、自然妊娠することが難しくなっているのが日本の現状です。厚生労働省の資料によると、2017年に生まれた子どものうち、16.7人に1人が生殖補助医療による出産だったと言われています。また、不妊を心配したことがある夫婦は全体の約2.9組に1組、実際に不妊治療や検査を受けたことがある夫婦は5.5組中1組の割合です。
これには、晩婚化の進行に伴う出産年齢の高年齢化が影響しています。第一子出産時の平均年齢は2011年以降、30歳を超えた状態で推移していますが、女性の年齢が上がると子宮筋腫や子宮内膜症といった妊娠を妨げる病気の発症率も上がりますし、35歳頃からは、染色体に変異がなく、発育の良い受精卵ができにくくなっていきます。妊娠しやすさという点では34歳も35歳もそれほど違わないのですが、流産する確率は35歳から上がっていき、40代になると4回に1回くらいは流産になってしまいます。ですから、35歳以上の女性は妊娠のハードルが上がるだけではなく、流産というハードルも乗り越えなければ出産に至らないということです。
また、男性も年齢とともに精子のコンディションが悪くなったり、ED(勃起不全)になったりするということが増えていきますから、妊娠・出産に関する高年齢化は女性だけの問題ではありません。
もうひとつ大きいのは、日本人のセックスをする頻度が非常に低いことです。男性向けの避妊具メーカーが行った調査では26カ国中最下位という結果が出ているほど、日本人のセックス回数は少ないと言われます。これに出産年齢の高年齢化が加わることで、より自然妊娠が難しくなっているという状況です。
「お産は病気ではない」は本当か?
基本的にはお産は病気ではありませんし、医療の介入が必要な出産は全体の2割程度です。ただし、高齢出産が増えている現状では『お産は病気ではない』と言い切れない側面もあります。
以前は高齢出産といっても、20代に何人か産んでいる経産婦さんがほとんどでしたが、今は高齢出産で初産という方も珍しくありません。もちろん個人差はありますが、初産では産道が広がるまでに時間がかかるので難産になりやすく、それに加えて高齢出産となると、妊娠中の高血圧や妊娠糖尿病、子宮の入り口に胎盤が形成されてしまう「前置胎盤」といった妊娠合併症を発症する割合も上がります。
具体的には、前置胎盤は30歳で約1.2%、40歳で2.6%。妊娠中の高血圧は30歳で約3%、40歳で約6%と倍になり、10万人当たりの妊産婦死亡率は25~29歳で2.8人、30~34歳で4.3人、40歳以上で11.8人と次第に高率になります。つまり、もともと健康だった人でも妊娠によって病気になるリスクが高くなってしまい、分娩の際のリスクも大きくなるということです。
5人に1人が帝王切開の出産に
今、日本では出産数の20%以上が帝王切開です。両親学級等では経腟分娩を前提とした話がされることが多いのですが、帝王切開についても基本的な知識を持っていた方がいいでしょう。
なんらかの理由で母体や赤ちゃんに危険があり、赤ちゃんを早く出さなければならないとき、また多胎妊娠(双子以上の妊娠)や前回の出産が帝王切開だった場合は帝王切開が選択されます。子宮筋腫で手術を受けた人は筋腫の位置によっては手術痕が陣痛(子宮の収縮)に耐えられず開いてしまう恐れがあるので、最初から帝王切開にするということもあります。赤ちゃんの頭が上になっている逆子(さかご。「骨盤位」)も今はほとんど帝王切開による出産です。理由は不明ですが、体外受精で生まれてくる子どもの場合、通常より胎盤の位置が少し低いことが多く、前置胎盤になりやすいため、この場合も最初から帝王切開になります。
帝王切開は赤ちゃんやお母さんの安全を確保するために行うものですから、経腟分娩ができなかったことで自分や誰かを責めないでほしいと思います。
健診で事前に帝王切開が望ましいとわかっている場合は、手術日を決めて帝王切開を行います。
厚生労働省の資料
厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック~不妊治療を受ける方と職場で支える同僚の皆さんのために」