対等ではない関係においては、本当はイヤなのに「いいよ」と言ってしまうということが、しばしば起こります。だからこそ、同意を求める側は、相手と本当に対等な関係なのか、自分が「上」の立場にあるのではないかと自問自答し、相手に無理に「イエス」と言わせないよう、また相手が安心して「ノー」が言えるよう、十分に配慮することが求められます。また、報酬(プレゼントや「愛してる」といった言葉など)や、脅し、精神的に相手をコントロールするなどの手段を用いて「イエス」と言わせても、それは同意ではありません。そして、相手が判断能力に欠ける状態(酔っていたり薬物を摂取していたりする等)にあるとき、同意を求めてはいけません。
また、同意はいつでも変更したり撤回したりすることができます。「さっきは『いいよ』と言ったけれども途中で気が変わった」「前はよかったけど今回はイヤ」など、自由に決めて良いのです。拒否された側は「うん、わかった」と、相手の意思を尊重しなければなりません。これは性に関することだけではなく、すべてのコミュニケーションにおける大切な原則です。実際のところ、「性的同意」とそうでない同意のどこが違うのか、明確に線引きをするのは難しいと言えます。
――「性的同意」の「性的」とは何を意味するのでしょうか。セックスのときに「いい?」「いいよ」と確認し合う以外にも「同意」が必要なのでしょうか?
何が「性的」かということはセックスだけに限らず、非常に幅広いものです。行為としては手をつないだりハグしたりキスしたりすること、肩を抱いたり頭を撫でたりなどからだに触ることといったからだに直接さわること、また見つめたり声をかけたりすること、写真や動画を撮影するといった直接さわらないことも含まれます。何かを話す時にも、外見や体型のこと、恋愛関係などプライバシーに関する話、性的なジョーク、性自認について、結婚や子どもを望むかどうかなど、さまざまなことがあてはまります。
さらに、何を「性的」と捉えるかは人によって異なります。ある人にとっては「これくらい、いいだろう」ということでも、他の人には耐えられない言動ということもあります。だからこそ、ひとつひとつ言葉で「〜していい?」と、相手の意思を確認していくことが必要になるのです。
――セックスやキスやハグはともかく、手をつないだり、肩を抱いたり、頭を撫でたりすることにも同意が必要なのはなぜですか。
「同意」とセットで考えなければならないのが「バウンダリー(境界)」です。バウンダリーとは、自分とそれ以外の世界を分ける境界のこと。バウンダリーの内側は、自分の心とからだの尊厳を守ることができるパーソナルスペースで、この境界の中に誰がどのように入っていいかを決めるのは自分だけです。
よく性教育で「プライベートゾーン」、つまり水着で隠れる部分は自分の大事なところで、他人に許可なく触らせたり見せたりしてはいけないと教えられますが、バウンダリーに含まれるのはプライベートゾーンだけではありません。たとえば男の子の場合、水着で隠れる部分は女の子より少なくなりますが、男の子にとっても胸は誰かに勝手に触られたり見られたりしていい場所ではありません。また、男女を問わず、頭や口、手足など、水着で隠れる以外の部分も「大事なところ」のはずです。覗きのような行為は、見られたのがプライベートゾーンであろうとなかろうと、目線による侵害です。つまり、からだ全体がその人のパーソナルスペースであり、他の人と区切られ、尊重されるべきプライベートゾーンと言えるでしょう。
バウンダリーをどう設定するかは「同意」と同じく、人によって違いますし、時や場所、相手によっても変わってきます。手をつなぐ、肩を抱く、頭を撫でることに対して、自分は「いい」と思ってもそう思わない人もいます。だから、きちんと確認することが必要なのです。
――「~していい?」と聞かれたときに「イヤだ」と言うのは、なかなか難しいと思います。「相手を傷つけたくない」「嫌われたくない」と思って、本心ではないのに「いいよ」と言ってしまうこともあるでしょうし、たとえノーと言えたとしても相手と気まずくなり「断った自分が悪いのでは」と自分を責める人もいるのではないでしょうか。特に女性は受け身の立場に置かれがちなので、悩む人も多いと思います。