子どもが加害者になりやすい「デジタル性暴力」
――最近増えていると言われる「デジタル性暴力」とは、どのようなものなのでしょうか。
デジタル性暴力は、先ほど述べた性暴力の5つの分類の中の「情報ツールを用いた性暴力」の一種で、オンライン上での性的勧誘、性的な画像を送りつける、子どもに自撮り(自画撮り)させ送信させる、画像を性的なものに加工するなど、さまざまな形態があります。SNSやネット上のやり取りを介して得た性的な画像をネタに「○○しないと拡散する」などと脅す「セクストーション」(「sex」〈性〉と「extortion」〈脅迫〉を組み合わせた造語)という脅迫も深刻で、元交際相手の性的な画像を復讐目的でばらまくリベンジポルノもこれに含まれます。
1990年代以降、デジタル性暴力は増加の一途をたどっており、特にコロナ禍以降、世界的に急増したことがわかっています。2022年に発表されたアメリカの大規模調査では、子ども時代にデジタル性暴力を受けていたのは7人に1人、画像に関する性被害に遭っていたのは9人に1人という結果でした。つまり、35人学級なら1クラスに4~5人はデジタル性暴力の被害者がいることになります。日本ではデジタル性暴力に関する大規模調査はまだ実施されていませんが、先ほどの内閣府の調査では、「最も深刻な/深刻だった性暴力被害」に「情報ツールを用いた性暴力」は16.3%を占めていました。
――デジタル性暴力への対策は取られているのでしょうか。
海外では厳罰化の方向に進んでいる国も多く、たとえば韓国では、本人の同意がない性的画像の撮影と、撮影した性的画像の配信には、いずれも7年以下の懲役、または5000万ウォン(約515万円)以下の罰金が科せられ、有罪判決を受けると個人情報の公開が義務付けられます。また、すべてのインターネット事業者は、性犯罪法に抵触する撮影物への削除要求があった場合、必要な措置を取らなければならないと定められています。
日本の法制度やデジタル性暴力を防ぐ仕組みは、現時点ではまだ不十分ですが、現状の改善に向けた取り組みも前進しつつあります。たとえば、2014年に成立した「リベンジポルノ防止法」は、違反した場合、懲役3年または50万円以下の罰金を科すと定めています。また2023年には、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が新たに施行されて「撮影罪(性的姿態等撮影罪)」が設けられ、いわゆる盗撮行為が罪に問われる可能性が出てきました。ただ、最近はスポーツの競技大会で選手の局部などを執拗に盗撮することが問題視されていますが、アスリートに対する盗撮写真は「性的姿態」とみなされない可能性が高いといった、法の抜け穴も指摘されています。
――法整備等が不十分な中、子どもたちを取り巻くデジタル性暴力を減らすために親や周囲の大人ができることはありますか?
セクストーションなどを未然に防ぐという観点でよくお伝えしているのは、交際相手も含めて「誰かに送る画像は、自宅の玄関の前に貼れるものだけにしよう」ということです。その基準で考えてみると、恋人同士の写真なら、ちょっと恥ずかしいけれどOKかな、でも性的なものはやはり貼れない、となるでしょう。その辺りの線引きを親子の間で見極めて、ルール化しておくとよいと思います。また、ネット上にアップされている保育園や幼稚園、学校の行事の写真もデジタル性暴力の対象となる可能性があります。SNSでの家族写真や動画の投稿なども、十分注意してほしいです。
子どもが使うデジタル機器については、少なくとも小学生ぐらいまでは親のチェックが必要だと思います。通信機能があるゲームのアプリで遊んでいた小学生がいつのまにか知らない大人とつながり、「今度会おう」という話になっていたということが、私の身近でもありました。子どもからすれば単にゲームをしていて仲良くなった人としか思えず、性被害の危険性に気づけないのです。こうした事例についても、ぜひ親子で情報共有し、デジタル機器の安全な使い方を考えていただきたいと思います。
それから、これはすべての性暴力についてあてはまることではありますが、特にデジタル性暴力では、子どもは被害者だけでなく加害者にもなるということを考えなければなりません。日本でもコロナ禍をきっかけに、教育現場でタブレット端末が一気に普及し、それを使って子どもが学校内で盗撮する事例も報告されています。これは単に子どもたちからデジタル機器を取り上げればいいということではありません。今の子どもたちは幼いときからデジタル機器に親しみ、画像や動画を撮ることが習慣化しています。たとえば、男子が女子の着替えや入浴をのぞいたりするということは昔からあったと思います。のぞき自体も性暴力ですが、今の子どもたちはさらにスマートフォンで撮影し、データとして残してしまうのです。盗撮を含めたデジタル性暴力が犯罪であり、先ほど挙げた法律で罰せられる可能性があるということを、家庭や学校できちんと伝えるべきだと思います。
〈「小児科医と考える、子どもを性被害から守るためにできること(後編)~被害を相談できるところはどこか、大人が心がけたいことは何か?」につづく〉