チェックシートのうち、基本的な生活習慣以外で意識してほしいのが、「感染症から自分とパートナーを守る」という項目です。実は性感染症と男性不妊症の関係は結論が出ていないものも多くあります。クラミジア感染症が男性不妊症に関係が「ある」という論文も出ていますが、臨床の現場で実際に患者さんのデータを取ると、何らかの性感染症に罹患している人は2〜3%とごくわずかだったりします。
とは言え、クラミジア感染症や淋菌感染症は女性にとって明確な不妊症の原因ですから、パートナーに感染させないように注意してほしいです。特にクラミジアは男性の半分に自覚症状がないため、本人が気づかないうちにパートナーを感染させてしまうこともあります。他にも、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症、トリコモナス症、ウイルス性肝炎、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症など、男性不妊症と関連する可能性があると言われている性感染症がいくつかあります。子どもがほしいと思う人は、早めに検査しておくとよいでしょう(「性知識イミダス:性感染症の基礎知識」参照)。
――このチェックシートには、2023年12月の改訂版で「HPVワクチンをうとう」という項目が加わっています。HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは、子宮頸がんに対する予防効果が有名ですが、男性もHPVワクチンを打ったほうがよいのでしょうか。
HPVは男女を問わず中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマの原因にもなりますが、特に女性にとって子宮頸がんを引き起こすリスクが高く、女性の妊娠・出産に重大な影響を与えます。HPVは性交渉によって感染するので、男性もワクチンを接種していればパートナーへの感染を防ぐことができるのです。
また、HPV陽性の男性の精液検査では精子の運動性低下が見られるという報告もあるので、ワクチン接種は男性不妊症の予防にもつながると言えるでしょう。
現在、日本で承認されているHPVワクチンのうち、男性が接種できるのは4価ワクチン(商品名:ガーダシル)のみで、医療費は自己負担です。計3回接種する必要があり、全体の費用は5万~6万円程度になりますが、自治体によっては男性にもHPVワクチンの接種費用を補助するところもありますので、ぜひ検討してほしいですね。
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精索静脈瘤
精巣の中にある静脈に血液が逆流したり流れが悪くなったりして、陰嚢の精索の中にある蔓状の静脈が腫れ上がり、静脈瘤を形成した状態。
「タイミング法」
最も妊娠しやすい日(排卵日2日前~排卵日)に性交し、妊娠を試みる方法のこと。
「シリンジ法」
タイミング法と同じく、最も妊娠しやすい日を予測し、子宮の奥に届くよう、腟内に柔らかい管を入れて精子を注入し、妊娠を試みる方法のこと。