射精ができていたり、精液の見た目に異常がなかったりしても、精子の状態は肉眼では確認できません。精液検査は独身でも受けられますので、自分の精子の状態を知るために気軽に試してみてほしいと思います。検査は、男性不妊の専門医がいる医療機関の他、産婦人科系の不妊クリニックでも受け付けています。
具体的な検査の方法は、2~5日間の禁欲期間(射精しない期間)の後、マスターベーションによって精液を採取します。医療機関に設けられた専用スペースで採取することもあれば、自宅で採取したものを1~2時間以内に持参する方法もあります。結果は、基本的にその日のうちにわかります。
――自宅で精子の状態をチェックできるキットがネットなどで販売されていますが、どれくらい正確なのでしょうか。
自分の精子の状態を知るためのひとつの入り口としては、キットはよい方法だと思います。ただし、光の当て方などで見え方にばらつきが出てきますから、正確な結果がほしいのであれば、やはり専門の検査機関での測定をお勧めします。また、精子の状態は日によって変化しますので、とりあえずキットでのセルフチェックで2回、あまりよくない結果が続いたときは受診し、検査するのがよいでしょう。2回のうち一度でもよい結果がでていれば、あまり気にする必要はないと思います。
ただ注意してほしいのは、精液検査の結果が100%、妊孕力を示すものではない、ということです。検査結果があまりよくなくても赤ちゃんができる人もいますし、逆によい検査結果でも2〜3割が妊娠に至らないという報告もあります。ですので、女性の不妊症と同じく、避妊をやめて1年間パートナーが妊娠しなかったら、早く不妊治療専門の医療機関を受診しましょう、ということですね。
――検査も含め、男性不妊症の診察を受けるときは、どこに行けばいいのでしょうか。
男性生殖器に関する症状は泌尿器科で診察することになりますが、すべての泌尿器科医が男性不妊症を診られるとは限りません。無精子症で精子を採取できなかったり、遺伝子的な疾患があったりするケースなど、高度な治療やカウンセリングが必要になることもあります。日本生殖医学会のサイトで公表されている認定医のうち、専攻が「泌尿器科」となっているのが男性不妊症の専門医です。
専門医がいる医療機関を受診できればそれに越したことはありませんが、男性不妊症の専門医は全国で実質70人程度しかいませんし、都市部に集中しがちで地域差があります。男性不妊症の場合、とにかく重要なのは精液検査ですので、男性不妊症専門医を受診するのが難しいときは、まずはパートナーと一緒に婦人科系の不妊治療医療機関で相談するのがよいと思います。
不妊治療の目標、つまり赤ちゃんをつくるためには、早く治療をスタートすることが大切です。まずは検査を受けてみて、結果がよくなければ、超音波検査や血液検査、触診等、男性不妊症の医療機関でより専門的な診察を受けて治療方針を検討するというステップになります。
「自分は男性不妊症ではないか」と不安だったり、検査や治療を受けて心配なことがあったりするときは、主治医の他、受診している医療機関にカウンセラーがいることもありますし、全国に設置されている不妊専門相談センター、地域の助産師会等でも相談にのってくれると思います。
男性不妊症予防のためにできることは?
――男性一人一人が有する精子の数は、この数十年で世界的に減少傾向にあるという調査報告を読んだことがありますが、男性不妊症は増えているのでしょうか。また、男性不妊症の予防のためにできることは何かありますか。
男性不妊症に対する認知度は上がっていると思いますが、実際に男性不妊症が増えているかどうかは、そもそも統計が取られていないので、「わからない」としか言いようがありません。
その上で男性不妊症の予防で大事なことは、繰り返しになりますが、やはり日々の生活習慣の改善ということになるでしょう。これは男性不妊症の臨床に長く関われば関わるほど、実感するようになったことです。
参考にしてほしいのが、国立成育医療研究センターが公開している「プレコン・チェックシート」です。「プレコン」は「プレコンセプションケア」(コンセプション=受胎のこと)の略で、女性だけではなく男性も、将来子どもを得たいと思うなら生活や健康に向き合おうという考え方です。チェックシートは女性用と男性用があり、男性用に記載されている項目は、「バランスの良い食事をこころがけ、適正体重を維持しよう」「たばこや危険ドラッグ、過度の飲酒はやめよう」「ストレスをためこまない」などといったもので、言ってみれば健康を維持するためにはあたりまえのことばかりです。
私の意見ではこのチェックシートにもうひとつ、不適切な方法でのマスターベーションによる射精障害を防ぐために、「適切なマスターベーションの方法を知ろう」も入れる必要があると考えています(「性知識イミダス:オトナも知ろう! 思春期男子が学ぶべき「射精道」とは」参照)。
ただ、現代社会において、「ストレスをためこまない」と言われても「わかっちゃいるけど、できないよ」という人もいるでしょう。人間を取り巻く環境自体、ここ100年で大きく変化しました。夜でも明かりに照らされ、スマホに頼り、パソコンの前に座ってばかりという生活に人間の体が追いついていないという面もあると思います。そういった諸々が精子の状態に影響を与えているのかもしれません。だからといって山の中で原始的な生活をするというのは現実的ではありませんから、常識的な範囲で折り合いをつけていくしかないのだと思います。
精索静脈瘤
精巣の中にある静脈に血液が逆流したり流れが悪くなったりして、陰嚢の精索の中にある蔓状の静脈が腫れ上がり、静脈瘤を形成した状態。
「タイミング法」
最も妊娠しやすい日(排卵日2日前~排卵日)に性交し、妊娠を試みる方法のこと。
「シリンジ法」
タイミング法と同じく、最も妊娠しやすい日を予測し、子宮の奥に届くよう、腟内に柔らかい管を入れて精子を注入し、妊娠を試みる方法のこと。