「子どもたちに性教育が必要だ」という話をすると、必ずと言っていいほど「自分は性教育を受けなくてもアダルトサイトやマンガ、成人向け雑誌でいろいろ学べた」「AV(アダルトビデオ)を見れば自然にわかることだ」などという反応が上がる。このような「アダルトコンテンツ=性の教科書」論者は主に男性である。この論に対し、「それではいけないのでは」と感じている人も多いだろう。しかし、ではアダルトコンテンツ(成人向けの主に性的なメディアコンテンツを指す)はなぜ、子どもたちが性を学ぶ『教材』としてふさわしくないのか、と問われると、論理立てて説明できるほどには理解が浸透していないように思われる。
現在、スマホ所有の低年齢化が進み、子どもたちがインターネットを無防備に使い始めるようになっている。インターネット上には、誰もが簡単にアクセスできるアダルトコンテンツが無数に存在する。年齢制限やゾーニングなどあってないに等しく、ユーザーが求めて検索しなくとも、性的な広告などが目に飛び込んでくることも多い。子どもたちがこれらのアダルトコンテンツにさらされる状況にある中、アダルトコンテンツで性を知ることの問題点はどこにあるのか。改めて整理してみたい。
アダルトコンテンツの問題点
まず、「アダルトコンテンツ=性の教科書」論の問題点がどこにあるかを考えてみよう。「性教育を始めるきっかけは、アダルトコンテンツの問題に気づいたこと」と話すのは、「アクロストン」のユニット名で、夫婦で性にまつわるワークショップを行っている、みさとさんとたかおさんだ。小学生の子どもふたりを育てながら、みさとさんは産業医、たかおさんは病理医として働いている。
みさとさん「子どもがまだ赤ちゃんだった頃、ネットでちょっと何かを調べるだけでも広告や漫画という形でアダルトコンテンツが出てくるということに気づき、愕然としました。子どもたちには、調べ物用のデバイスとして、小学校に上がるぐらいの年齢からタブレットなどのデジタル機器を積極的に使わせようと考えていたので、こうしたアダルトコンテンツで変な知識をつける前に、こちらからちゃんと性のことを伝えなければ、と思ったんです」
たかおさん「アダルトコンテンツは、基本的に女性の性を商品化しています。本来、セックスって、話をしたりして仲良くなるとか、キスをするとか、好きな人と親密になっていくコミュニケーションの延長線上にあるものなのに、アダルトコンテンツでは突然、セックスだけが取り出されて扱われる上、暴力的なものが多く、『痴漢』『レイプ』といった明らかな性犯罪まで娯楽として扱われているという点が非常に問題だと思っています。また、一見、ソフトな雰囲気であっても、女性がコンドームなしのセックスを望むような描写があったりするなど、性感染症や避妊の知識がない子どもが見るものとして、危うさがあると言わざるを得ません」
たかおさん自身も「中学生頃からアダルトコンテンツを見ていた」というが、当時と今の子どもたちとでは置かれた環境がまったく違うという。
たかおさん「僕は今38歳ですが、当時のネット回線の速度は遅く、そもそも動画を見ることができませんでしたし、パソコンは家族共用でした。アダルトものを見たかったら、レンタルビデオ屋に借りに行くということになるわけですが、奥の方にあるアダルトコーナーに入るのは、中学生にはものすごくハードルが高かったんです。でも今の子どもたちは、自分のスマホやタブレットで簡単にあらゆる種類のアダルトコンテンツにアクセスできてしまう。アダルトコンテンツにはもともと非常に問題があることに加えて、そういうものに子どもたちが簡単に触れられる現状を考えると、やはり対策をちゃんと講じないといけないと思います」
ペアレンタルコントロール
未成年に悪影響を及ぼす恐れがある性的・暴力的表現などを含むコンテンツにアクセスできないよう、子どもの情報通信機器の利用を保護者が監視・制限する取り組み。
セーフサーチ
検索エンジンでポルノや暴力などの不適切なコンテンツを非表示にする自動フィルタリング機能のこと。