連載を始めるにあたって
突然だが、あなたは性のことをいつ、どのように学んだだろうか?
学校の保健体育の授業、雑誌や本、ネットの情報、友人や先輩からの口コミ、あるいはその全部かもしれない。だが、そうやって得た性の知識があっても、よくわからなかったり、悩んでいたりすることはないだろうか。
情報源のトップは「友だち」。一方、性知識についての正答率は約3割
ちなみに、17歳から82歳を対象に行われた「性教育に関するアンケート」(NPO法人ピルコン)では、性を知る情報源のトップは「友だち」、次いで「漫画」「雑誌」「アダルトサイト」「書籍」などのメディアだ。一方で、「学校の性教育の授業」を挙げたのは34歳以下のみだが、この世代の65%は「性交」「セックス」という言葉を知った年齢が「0〜12歳未満」、つまり中学生になる前から性情報にアクセスしやすい環境にあることがうかがえる。
だが、彼らが正しい性知識を学べているかどうかは、かなりあやしい。以下は、ピルコンが関東圏の高校生男女4016名を対象に行ったアンケート調査の質問と正答率だ。
他の質問もあわせた正答率の平均は約3割という低さだが、それ以上に気になるのは、ほぼすべての質問に対して「わからない」という答えが半数以上に上ったことだ。
さて、あなたは上に挙げた質問にどれだけ自信を持って答えられるだろうか?
(答えは「高校生の性知識・性意識・性の悩みに関する調査」〈2016年、ピルコン〉を参照)
今どき、わからないことがあればすぐ検索することはできる。ただ、その情報が本当に正しいかどうかを判断するには、やはり基礎的な知識が必要であり、それは性についてもあてはまる。そして、性の知識があやふやなのは高校生だけでなく大人も同様だ。
「患者さんたちの知識が偏っていると感じることはよくあります」と危惧するのは、東京・高田馬場「桜の芽クリニック」院長の西弥生先生。生殖医療専門医である西先生のもとには、不妊に悩むカップルが大勢訪れる。「スマホが普及して、患者さんたちはネットで情報をものすごくたくさん集めてくるようになりましたし、何もわからないという状態で診察を受ける患者さんはほとんどいません。でも、たとえば個人のブログに書いてあることをそのまま自分にあてはめてしまったり、『これだ!』という情報を見つけるとそれ以外のことが見えなくなってしまったりすることも多い。基本的な知識が抜け落ちているので、情報を集めれば集めるほど迷路に陥ってしまうという印象を持っています」
「生理中のプール」は医学的にはOK。では何が問題?
本来なら子どもたちにきちんと性教育を行うはずの学校ですら、性に対する知識は相当危ういようだ。たとえば、2018年、月経期間中の女子生徒に水泳の授業を強制することについての議論が起こった(「生理中のプール授業 医学、人権上問題は?」2018年9月12日「西日本新聞」)。
月経中の水泳自体は、医学的には問題がない。日本産科婦人科学会の「月経期間中のスポーツ活動に関する指針」(1989年)でも月経中の水泳は可能であり、月経を理由にスポーツ活動を禁止するべきではなく、むしろ健康のためには運動する方が望ましい、と述べられている。プールの中では水圧がかかるため、生理用品をつけなくても、経血が漏れてしまうこともほとんどない。
では、何が問題なのか。
まず、プールから上がると経血は漏れやすくなる。すぐにシャワーを浴びたり、濃い色のタオルを体に巻くなどで対処できればいいが、そうでない場合、生理中であることが周囲にわかったり、血が漏れ出たことでからかわれるなど、本人が嫌な想いをする可能性が高い。また、月経期間中の体調には個人差があり、生理痛がひどいなどの理由でプールに入りたくない生徒もいるだろう。