「ジェンダー平等」「ジェンダーバランス」「ジェンダーレス」「ジェンダーギャップ」など、最近、「ジェンダー」という言葉をよく目にするようになった。ただ、「ジェンダー」とは何かということになると、それぞれのケースで微妙に違いがあり、「文化的・社会的性差」という定義も曖昧でよくわからないと感じる人も多いかもしれない。なぜ今ジェンダーが語られるようになってきたのか、知っておきたいジェンダーの基本的知識と共に、加藤秀一・明治学院大学社会学部教授にうかがった。
そもそも「ジェンダー」って何?
――「ジェンダー」とは、どのように定義される言葉なのでしょうか。よく「文化的・社会的性差」などと言われますが、わかるようなわからないような印象です。
現状では、「ジェンダー」の定義やその実際の使われ方は、それを言う人の立場によってさまざまで、それぞれの間に齟齬(そご)があるということが見られます。言葉の定義にこだわりすぎる必要はありませんが、とはいえひとつの言葉をみんなが全然違う意味に理解していたら話は噛み合いませんから、ある程度の共通認識は必要でしょう。
そうした中で、ひとつ、共通認識として押さえておくとよいと思うのは、世界保健機関(WHO)による次のような定義です。ざっくり訳すと、「ジェンダーとは、女性、男性、少女、少年にふさわしいとされるさまざまな特性を指す。そこには規範、ふるまい、役割、また相互の関係が含まれる」というものです。
〈原文〉
Gender refers to the characteristics of women, men, girls and boys that are socially constructed. This includes norms, behaviours and roles associated with being a woman, man, girl or boy, as well as relationships with each other. As a social construct, gender varies from society to society and can change over time.(WHOウェブサイト「Gender and Health」より)
私自身は『はじめてのジェンダー論』という著書の中で、以下のように定義しました。「私たちは、さまざまな実践を通して、人間を女か男か(または、そのどちらでもないか)に〈分類〉している。ジェンダーとは、そうした〈分類〉する実践を支える社会的なルール(規範)のことである」。基本的にはWHOの定義と発想は通じていますが、ジェンダーは「すでにある、変わらないもの」ではなく、「私たち自身が日々作り上げ、作り直しているもの」という意味合いをより強調しています。
――必ずしも決まった定義があるわけではない、というほかに、「ジェンダー」という言葉がさまざまな場面で使われているということも、わかりにくさの原因ではないかと思います。
英語ならジェンダー(gender)、セックス(sex)、セクシュアリティ(sexuality)と使い分けられるところが、日本語では「性」という一語でくくられてしまう上に、「ジェンダー」だけをとっても場合によって焦点が違っていたりするので、どうしてもわかりにくくなりがちなのですね。「ジェンダー」については、大きく分けて4つの使われ方をしています。
(1)「性別」
英語ではかつて、書類などの性別欄にsex(セックス)という言葉が使われていましたが、今ではgender(ジェンダー)が一般的です。これは、ジェンダーが流行り言葉だから置き換わったということではなく、「性別」というものの捉え方自体が大きく変わってきているのだと言えるでしょう。