この偽装された核武装政策に関われば、ものすごく儲かったのです。やがて何十年も嘘をついている間に、関係者は利権の味だけを覚えて、本当の目的を忘却していきますが、構造が同じである以上、やっていることは偽装核武装計画の一部なのです。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)が利権に群がる構造は、満洲国の頃から何も変わっていません。そして一度暴走したら、もう誰にも止められなくなるんです。その暴走の果てに、福島第一原発が爆発し、死の灰が日本中にばらまかれたのです。
私は日本社会の暴走の背後には、『立場主義』があると思っています。自分が何であるかではなく、自分はどんな立場かで物事を判断するようになると、立場の『役』を演じるようになります。そして立場が守られるのであったら、何が起きても構わない。しかし自分の立場が揺るがされるなら、どんなすばらしいことでも絶対認めない。それが立場主義です。立場主義に忠実になればなるほど、立場上、あるいは自分の立場を守るために無責任に暴走してしまうのです」
会社員や主婦などの属性や、もっと言えば男性や女性といった区別も、「立場」を演じるための「役」に過ぎない。個人ではなく人々は「立場」を基に考えて行動するから、男性がスカートを履くのは「立場を逸脱した行為」と受け取られ、忌避されるのかもしれない。そんな立場主義に日本人は今もがっちり束縛され、まさに「日本立場主義人民共和国」に生きていると、安冨さんは言う。
「なぜ安倍政権があそこまで暴走しているかというと、第一次安倍内閣が倒れて、民主党政権になったことで自分たちの立場が、決して盤石ではないことに気づいてしまったから。彼らは立場を守るのに必死で、立場のためなら欺瞞にもウソにも無頓着です。それは特殊法人や大企業も同じだから、もはや救いようがない。しかしこの立場主義は、もう終焉を迎えつつあるのではないかと思います。なぜなら日本は財政赤字が膨らみきっていて、いつ財政破綻してもおかしくない状態だからです」
2015年度の普通国債発行額は807兆円に膨れ上がり、日本銀行の総資産は安倍政権下で150兆円から400兆円に拡大しました。年金積立金の運用も大失敗している。そして日本のモノづくりを支えたシャープは、海外企業に買収されてしまった。今後もこのようなケースは増えるだろうから、日本の経済システムにヒビが入る日も遠くない。それにより立場にしがみついていた人たちの居場所も、同時に崩れていくのではないかと安冨さんは分析している。
誰もが「自分」を生きることで、暴走を食い止められる
では、わずか13年で終わった満洲国同様、この「日本立場主義人民共和国」も崩壊が近いとしたら、その後を生き抜くためには、どんな心構えが必要なのだろうか?
「一人ひとりが立場でなく、自分を生きることを考えるしかないと思います。そのためにもまず、『競争に勝つことが偉い』という洗脳から抜け出すこと。なぜなら今の日本社会は全員が同じコースを走ることになるので、有力な家の出身者など、有利なスペックを持つ人以外は、簡単に勝てないようになっています。だから自分だけの脇道を走って、自分なりのゴールを目指さないと。孫正義さんがいい例です。在日韓国人の彼は王道を行っていたら有利に戦えないからと、高校からアメリカに渡る『脇道』を歩んで、見事にチャンスをつかみましたよね? 誰も行かないような脇道はキケンだという、思い込みを捨てればいいんです」
そしてもう一つ、生き方は選ぶものではなく変えるものだから、「明日から別の生き方を選ぶ」ではなく、「立場を手放してから変わる」という心構えも必要なのだと、安冨さんは続ける。
「自分でないものになるために、やりたくないことをして『立場』を手に入れても、決して幸せにはなれません。やりたいことをやって、欲しいものだけを手に入れるようにしていると、周りから『あいつは変わり者だ』と嫌われるかもしれません。しかし他人が作ったイメージを信じて立場にしがみついていたら、魂を誰かに譲り渡すことになります。
人間は『今の立場を手放したら奈落に落ちる』と思いがちですが、落下してもせいぜい5センチ程度ですよ(笑)。そしてそれで友人が離れていったとしても、別の友人が5人の仲間を連れて現れるはず。その5人がそれぞれ違う5人を連れてくれば、幾何級数的にネットワークが広がります。するとポジティブなフィードバックが起きて、社会が劇的に変化するのではないでしょうか。こうして一人ひとりが立場ではなく自分の生き方を見いだすことができれば、戦争に向かって国家が暴走することを今度こそ防げると、私は思っています」