3年ぐらいしてから母とも連絡が取れるようになって。私を置いていったことをすごく謝ってくれたし、今では仲よしです。毎日連絡を取りあってるんですよ。
仁藤 子どものころから「自分は自分」という育てられ方をしたんですか?
宮本 おばあちゃんは、私を置いて出ていった母のことを「あの子にはあの子の人生があるから」と言ってました。それはどうなの? って、その時はすごい悩んだけど。でもそうやって強く言ってくれる人がいて、私の場合はよかったです。でも、強く言われ過ぎてもっと落ち込む子もきっといると思う。
仁藤 そうですよね。私が出会う子たちは、学校にも家にも、どこにも居場所がなくなっている子が多いんです。貧しくてご飯も食べさせてもらえなくて、上履きを買うお金がなくて、パンツを売ろうとしたら、クルマに連れ込まれてレイプされてしまったり。地元の駅やコンビニのあたりで立ちんぼして、おにぎりを買ってくれた人についてったら、家に連れ込まれ性行為を強要されたり。そういう子が「その時5000円もらったから、もらっちゃった自分も悪い」と、罪悪感を持っていたりするんです。私が「それは売春というより、性被害だよ」と言うと、罪悪感が少し楽になるみたい。だけど今度は逆に「被害を受けた」ということが辛くなる。そういうふうにずっと悩んでいく。
安心できる居場所をなくしてしまった子が夜の街に出ると、未成年を扱う違法の売春業者にねらわれて声をかけられる。そこで「初めて自分が認められた、ここに居場所ができた」と思って頑張ってしまって、病気をうつされたり妊娠したり。彼女たちは居場所を求めているんだけど、そこは本当はとても危険な場所なんですよ。
宮本 そういう知識がまだ無いから、危ないですね。
仁藤 そうなんです。学校でもっと教えてほしいんだけど、高校の教科書でも「売春」という言葉を使っちゃいけないんです。だから、軽度の知的障害のある子とか、自分がしていることが「売春」だということもわかっていない。「それ売春だよ」と言ったら、「売春って、このことなんだ」と。
宮本 授業で取り入れるべきですね、早い段階で。最近、小学生同士で妊娠してしまう人もいるんだし。もっと授業で性についてオープンにしていいんじゃないでしょうか。アメリカはけっこう早いですよ。
仁藤 日本は遅い。ところがネットやスマホで映像は見られるから、それで覚えちゃう。だけどコンドームをつけてやってるAV(アダルトビデオ)なんて無いでしょう?(笑)
宮本 確かに(笑)。
仁藤 「嫌だ」と言いながら女は喜んでる、みたいな暴力的なのばっかりだから。中高生からの相談で、「やだ」と言うと彼氏がもっと痛いことをしてくると言う子も多いんです。
宮本 バカな彼氏だねえ……。
仁藤 私、中学や高校でも「中出し、ナマ、顔出しは当たり前じゃないよ」「AVはフィクションだ」「暴力的なセックスはまねするな」とか教えたほうがいいと思う。「売春」に誘い込まれる手口やリスクも教えないと。日本は、知識を与えると性行為をする子が増える、「寝た子を起こすな」という考え方が根強いんですよ。
宮本 でも、セックスするのは別に構わないですよね、ちゃんと知識があれば。
仁藤 そう。最近出会った女の子も、14歳で彼氏とセックスしたことを親が知って大騒ぎになって、「中学生がそんなことしちゃだめ」と怒られたらしいんです。「中学生がしちゃだめって知らなかったんだもん」と言ってました。私としてはコンドームもつけないような男に簡単にやらせるのは心配だから嫌だけど、やっちゃいけないわけではない。
宮本 私はこの間、「子どもにいつ性のことを教えようか悩んでる。エリアナ、うちの子に教えて」と相談されました。その人、子どもがもう中学生なんですよ。私が教えるのは別に構わないけど、「親なんだから、親がちゃんと教えなきゃ!」って言ったんです。
うちの家族はオープンですよ。やっぱり何でも話せる家族を持っている人は、幸せな人が多いですよね。だから私は恵まれてるなって思います。
仁藤 それは大事ですね。親に殴られたり、友だちにいじめられたりしている子は自信を無くしてしまう。性犯罪をおかす人は「性欲」というより「支配欲」を満たしたいらしいんです。自分が「弱者」だと感じている人が、自分よりもっと弱い者を見つけて支配したい。だから女の人や子どもに手を出すんですね。
宮本 性犯罪をおかす人も、被害にあう人も、自分の価値がすごく低くなってしまっているんですね。うーん、難しい。これは男性からも立ち上がってほしい。
仁藤 そのとおりです!
宮本 性的な問題について、男性で活動している人は女性に比べて少ないと思うんです。男の人にも、声をあげていってほしいですね。
私がいろいろなところでお伝えしているのは、「まず自分自身を愛してください」ということです。自分自身を愛せないと、危ない目や痛い目にもあいやすいし、他の人のことも愛せないと思うんです。「まず自分を愛して大切にして」と。差別されたり、いじめられると「自分が悪いんだ」と思ってしまう人が多いでしょう。自分がダメだからいじめられるんだ、と。そうじゃない。あなたは悪くないんですよ、と言いたいです。
それから、私は家族が子どもを愛すること、人を差別してはいけないと教えていくことが大切だと思いますが、今日仁藤さんとお話して、学校もとても大切だと感じました。「学校に行って、ちゃんと教えてあげなきゃ」と。
仁藤 私も学校での生徒向けの講演には、都合のつく限り行くと決めています。学校で、今日お話したような困った状況にある女の子の話をすると、「私も何かしたい」と言う子はいるんです。でも「身近にも困ってる子はいるし、いじめや差別はあるでしょ。身近なところから変えていって欲しい」と言うと、下を向き始める。みんな心あたりはあるけど、身近な場で実際にそれを変えていくのはとても難しいことなんだと思います。
それでも、見た目だけで人を差別したりしない人は、きっと周囲にもいると思う。いじめられている人の助けになりたい、と思っている人は必ずいます。今、いじめられている人は、そういう人を見つけてほしい。また、自分の心の中にも差別意識がないだろうか、と自戒をこめて振り返ってみたり、自分自身がいじめや差別をなくしていく方向に動いていけるといいですね。
宮本 私も、自分にできることをやっていきたい。あらためて頑張ろう! と思いました。
仁藤 エリアナさんのように勇気を出して行動している女性に会えて、改めて心に勇気をもらいました!
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