今、コラボを支援してくれている方の中にも、かつて「援交」をしていたという女性がいます。「援助交際はWin-Winの対等な関係と言われていた時代だったけど、決してそうは思わない。私もブランドもの欲しさではなく、生きるためにやっていた。今は家族もいるし、当時のことは絶対に知られたくない」というお手紙をもらったこともあって。私はその頃のことは知らないけど、同じように苦しんでいた人もいるんだなあって。
北原 やっぱり。あの時代にリベラルな男の人とかフェミニストたちが「援助交際」をもてはやしてしまった結果の重さというか、今、地獄を見せられているような気持ちです。
仁藤 私はこの活動を始めるまで、「フェミニスト」のこともよく知らなかったんですよ。何となく“ヘンなおばちゃんが騒いでる”みたいなイメージを持っていて。
北原 ヘンなおばちゃんが騒いでる。実際、そうだから(笑)。
仁藤 ところが、自分が見てきた世界で「おかしい」と思うことを発信していたら、男たちから「新しいフェミニスト」と言われ始めて。「え? 私ってフェミニストなんだ」といろいろ調べてみたら「超わかる! フェミニストってこんなこと言ってたんだ。超いいじゃん、フェミ!」と思いました(笑)。気づかせてくれてありがとう! って。
北原 おかしいと思うことに対して、ヘンだからヘンだって言ってるんだけど、それを言ってると、どんどん“ヘンなおばさん”になってしまう、“ヘンなおばさん”にさせられてしまうのよね、この社会。
大体、女性が性を売るのはバッグが欲しいからなのか貧しさからなのか、その理由ばかり云々されるのがおかしい。それよりも男が女子中高生を「買う」という異常さ、男の性の欲望がこんなに自然に世の中の制度に組み込まれていて、当たり前のように風俗に通える社会のほうがおかしいでしょう。
慰安婦問題でも、日本では「無理やり連れていかれたのか、自分の意志でいったのか」「お金をもらったのか、もらってないのか」ということが問題にされますよね。でも国際社会では、誰もそんなこと問題にしていない。だって、「これは女性への性暴力である」っていうのが明確だから。でもなぜか、日本ではそれが伝わらない。おかしいよね。
仁藤 私は今まで、男に買われている女の子たちと慰安婦問題を重ねて考えたことがなかったんです。ところがある時、女の子を連れて慰安婦の写真展を見にいったら、その子たちがそこに書いてあるストーリーにすごく共感して、震えている感じがあって。私よりも強く何かを受けていました。
北原 ああ、そうだよね。やっぱりそうなんですね。
仁藤 「こういう写真で伝えられるってすごいね」「うらやましい」と。そこから「私たちは『買われた』展」の企画がスタートしました。男に買われた体験のある子たちの絵や写真やメッセージを展示して、児童買春の現実を伝えていこう、と。
北原 だけど日本の社会で性の問題に取り組むと、大変な戦いになってしまうでしょう? 私もラブピースクラブを始めて20年になるんですけど、楽しいこと、ポジティブなことをしたいと思って始めたのに、どんどん暗くなるの。
日本は、女性に対する視線が冷たい。さげすみや憎しみを感じます。さっきの「メスブタ」もそうだけど、AV(アダルトビデオ)のタイトルを見ても「クソマンコ」とか。エロと暴力を融合して、セックスだと思っている男が多いでしょ? 暴力がないとチンコがたたないのかしら。
仁藤 AVは暴力的なのが多いから、それが当たり前だと思っている子は多いですね。加害者にAVを見せられて、学んでから実行させられた子もいます。私はいつも「AVはフィクションだ」と話しているんですけど。
北原 そういう暴力的なAVはまったく有害。女の人も男の言うなりになる必要はない。
仁藤 ナマでやることも暴力だと思うんです。女の子が「ヤバい、妊娠したかも」ってSNSのタイムラインに書いたら、「堕(お)ろせばよくね?」と普通にコメントしてくる男の子がたくさんいる。妊娠のことや性病のこともよく知らずに、そんな男とやったら危ないよ、「この人なら」と思う人と、ちゃんと一緒に勉強しながら楽しむべきだって話をいつもするんですけど。
北原 いいじゃない、すごくいい! それしかないって私も思う。女の人は、まず自分の体をよく知ることがとても大事だし、男の人は、まず目の前の女の人の話を聞くことが大事だと思います。相手の女の人が望んでいること、したいこと、どうしたら気持ちいいのかよく聞いてほしい。マニュアルで「女性の性器の触り方」とか覚えられても困るからね、だって女性の体は一人ひとり違うんですから。それなのに男の人って、セックスの大家みたいな人の話は聞くけど、妻や恋人の話を聞かないんだよね。
本当に、こんなに言葉が通じないって、どういうことなんだろう。「これは暴力だ、おかしい」と批判すると、権力と戦うことになっちゃう。権力だからね、男の性欲って。男たちは「自分が批判されている」と思うから、結束して反撃してくるでしょう? だけど、例えば慰安婦問題だって、男の人自身も国に性を管理されて利用されたわけでしょう? ほとんど娯楽もない軍隊の中で、「突撃一番」なんて名前のコンドームを配られて……気持ち悪くないのかな。おかしいと思わないのかな。
仁藤 そうなんですよね。男も利用されている。貧しい家庭で、親から暴力を受けていたような男の子は、女子高生を取り込む側のスカウトになる子も多いんです。女の子たちも「同じような環境で育ってきているから自分のことをわかってくれる」っていう共感性があるから、取り込まれてしまう。その気持ちもすごくわかるんです。その男の子たちだって、元々悪いやつじゃない。ただ自分が生きるために、女の子を食い物にしてしまう。そのことは許せない。だけどその男の子たちも、足がつくような仕事をやらされて警察に捕まったり、結局、自分も食い物にされているんですよ。だから女の子を食う側に流れるんじゃなく、一緒にこの状況に対して声を上げてほしいんです。
北原 そうだよね。ちょっとこの社会、おかしいって思っている男だっているはずだよね。一緒に、みんなで戦っていかないと。
仁藤 新宿でも渋谷でも、風俗のスカウトは100人ぐらいずついて、路上で女の子に声をかけまくっている。それに対抗して、支援者や教育者や行政も同じぐらいの人数で、みんなでチラシを配って女の子たちに声をかければいいと思うんですよ。
北原 一人ぼっちで困ってる女の子が街にいる。私もきっとその子たちを風景の中でとらえているはず。だけど今まで私の目には、そういう弱ってる女の子が映らなかった。だってその子たちは目立たないようにしてるでしょう? 怯えてるから。パワーを消してるから。
仁藤 彼女たちは地味です。
北原 そう、地味。「まさかこんな子が」っていうような。男たちは狩りをしてるから、狙っている獲物が見えるんでしょうね。だけど私たちも、その子たちをちゃんと見守らないといけないね。私も見つけます。そして、その子をファミレスに誘う。
仁藤 路上で北原さんに会えたら超いいですね(笑)。
北原 「街のフェミですけど、一緒にご飯でも食べようか」って。そうやって声をかけていくって大事だね。
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